赤蝮サンダースのミュージックギフト!
この番組は『エーザイ』『マルエツ』ほか各社の提供でお送りします。
「マムシさん、今日は長野県坂城町中之条の『まちだ食堂』さんにお邪魔しております。マムシさ~ん!」
「よォよォ、『心をこめて営業中』ってのに、『まだ、食堂』なんて暖簾ぶら下げやがって。まだなのか、まだじゃねえのか、ハッキリしろよこの野郎!」
「なんだ、真ん中がめくり上がってたのかよ。しょ~がね~な~、人の悪ィいたずらしやがって。そこで鼻垂らしているガキ、おめえがやったんじゃねえだろうな。進駐軍からガム貰ってたような顔しやがって。コロナで大変だけど立派に育てよ」
「いやいやいやいや、もうホントにねぇ、いま坂城だよ、有利ちゃん。"ものづくりの町" なんて言われている工業の町でね、中小企業が活躍してるの。ちょっと東京の大田区あたりと似てるね。こうなりゃ下町ロケットの向こうを張って、坂城宇宙エレベーター計画でもぶち上げてくれね~かな~」
「ええ、ええ」
「で、今日はその工場で働いている連中の腹を満たしている食堂で、オレもご相伴に預かろうって算段だよ。もうお腹と背中がくっつきそうだ。"まちだ" って言われても待たねえからなっ」
「さ、行こう」
「これあ、雰囲気いい店内だな。なぁんか初めてのような気がしないよ、オレ。そこのボトル、オレが入れたんじゃないの?違うか、ガハハッ! やあやあ、どうもどうも、先客がいたね。どうだいお父さん、いつも来てんの?」
「時々だよ」
「嘘つけよ!実家の様な安心感で寛いでいるじゃねえか。本当は住んでるんだろ?三杯目もそっと出さない居候みたいな風貌しやがって。ゆっくりしていってくれよな」
「とりあえず梅きゅうとホッケと電気ブラン…おっと、浅草で飲んでたんじゃなかったな。女将さん、注文をお願いするよっ」
「ガストあたりのファミレスじゃあタッチパネルのオーダーとなるけどさ、ここでは紙に書いて注文だ。停電になったってビクともするもんじゃないね。女将さん、歳はいくつだい?」
「ここは私も含め、店員みんな80代だよ」
「平均80⁉ 上手い連中のゴルフのスコアみたいだな。まめにカウンター内を行ったり来たりしているね。これあ足腰にもいいやな。いつまでも頑張ってくれよ」
「来た来た。ラーメンとチャーハン。昼飯はこれに限るね。こういうのでいいんだよ、こういうので。医者には止められてるけどよ」
「ゴクゴク。新しいヘルシア緑茶、始ま…麦茶だよ、これあァ」
「この『ラーメンセット』が750円ってんだから、この時節ありがたいねえ…ズルズル。ん? "テレビで紹介"『ナポリタンセット』が有名なんだな、ここは。道理でみんな一様に頼むワケだ。…どいつもこいつも…ナポリタンってやがる!」
「マムシさ~ん。藤原竜也さんのモノマネはそれくらいでいいですから~」
「こっちは『からあげ定食』だな。これも美味いね。ちなみに前にある大量のグラスは、電話で予約をいれてきやがった客の分なんだが、まだ影も見えねえってのに早々に氷を入れちまいやがって…来る前に溶けちまわねえか冷や冷やだよ。お冷だけに」
「あ、そう」
「ごっそさーん。いやぁ有利ちゃん、い~い店だった。女将さん、それにしても元気だったな」
「"老いては益々壮んなるべし" だね、マムシさん」
「こちとらジジイも負けてらんねエな」
「みんなにゃお土産に地酒でも買ってくよ。どれどれ…『オバステ正宗』…オバステだあ⁉」
「そういえば坂城町のお隣、千曲市には有名な "姨捨山" があるよね」
「爺捨山の間違いじゃねえのか?黙って捨てられるようなタマじゃあねえぞ、ババアどもは」「ここだな…ホントに姨捨山なんてあったんだな。ババアを捨てるなんて…ひでえコトしやがって」
「そんなに山奥でもないんだな」
「地図もあるな」
「バス停もあるじゃねえか‼ これじゃあババアどもは山から帰って来ちまうぞ!捨てた後にちょっと買い物なんかして家に戻ったら、先に帰ってるぞ、ババアは、エアコンつけて」
「マムシさん、曲の準備ができましたよ。北見恭子&岡千秋で『帰るのね』」
「帰るのかよ!」
「"俤や姥一人なく月の友"
松尾芭蕉が姨捨の月を眺めて詠んだ句だね。ここ『長楽寺』さんに句碑がありますよ。伊能忠敬も訪れたそう」
「小林一茶は4度も訪れたってんだろ?もう小林四茶って呼んじゃうから」「観音堂は江戸時代中期の作ですよ。慎重に登ってね、マムシさん」
「早速お参りをするか。エ~ナンマンダブナンマンダブ…観音様、オレは "ジジイ" "ババア" と常日頃いたる所で広言してはばからないけど、誓って "クソジジイ" "クソババア" とは言っていません。だからもう腸閉塞になりませんように…」
「いい眺めだねぇ…お?」
「あれが "田毎の月" で有名な姨捨の棚田だな。水入れ時期の小さな田んぼ一つ一つに月が映えるとなると…」
「幻想的な風景になるだろうね、それはそれは」
「棚田は高低差を利用して常に新鮮な水が田に流れ込み行き届くから、美味しいお米が収穫できる事でも有名だよね」
「捨てられてもウマ米食べて滋養強壮で過ごしていそうだな、ババアどもは、ここなら」
「イテテ…サンダルで来ることは推奨しないぜ」
「"姨石" を登るんだね、マムシさん。足もと気をつけて」
「ハァハァ…伝説じゃあ、殿様の命令で年老いた母ちゃんを山へ捨てに来た息子は、考え直して家に連れて帰るんだよな」
「ゼェゼェ…その後、母ちゃんがオレみたいな才覚で頓智を連発し、殿様を唸らせ改心させるんだから、まったくもってスーパーババアだよ。痛快だよな」
「"年寄りの言うことと牛の鞦は外れない" というよね」「フ~…年は取るんじゃなくて、重ねるモンだからな。長生きしろよババア。しょ~がねえな~
抱いてやるよ」