「爽やかだね~、マムちゃんみたい」
赤蝮サンダースのミュージックギフト!
この番組は『エーザイ』『マルエツ』ほか各社の提供でお送りします。
「TVSラジオ『大佐和有利のゆうゆうサイド 赤蝮サンダースのミュージックギフト"』
マムシさん、今日は長野市長野元善町491『善光寺』さんにお邪魔しております。マムシさ~ん」
「人間だれしも生まれた時は "おぎゃあ" ってんで大口を開けて出てくるから "阿形" ってんだな」
「で、死ぬ時は『う~ん』 ってんでおちんじまうから "吽形" てんだ。密教じゃ阿吽の2文字で万物の初めと終わりを意味するというくらいのありがたい…ヤイッ、聞いてるのかそこのババア!居眠りしやがって。息してるか?ホントに寝くたばっちまったんじゃねぇだろうな、まったく…長生きしろよ」
「いやいやいやいや、もうホントにねぇ、いま表参道だよ、有利ちゃん。あの善光寺にお参りに行く通り道だ。"一生に一度は善光寺詣り" と言われるほどのお寺さんだから、まったく賑やかだね。でもよ、ここは何かイイ匂いがするねぇ…仁王門。なんてね」
「ええ、ええ」
「で、今日は天気もいいからさ、今ねぇ市立長野図書館にチョット寄ってみたんだよ。そしたらね、まだ三分か四分だなぁ、ああ、魯桃(ろとう)桜。早咲きで有名だけど、まだ満開じゃないね。そっから善光寺まではすぐだけど、路頭に迷わなくてよかった」
「あ、そう」
「振り向けば長野市が一望だよ。歩いてみるとそんなでもないが、わりと高い所にあるんだな。名所ってのは、とかく高い所にありがちだから、年寄りには大変だぜ。
ん?『歩くのもいいリハビリ』 だって?
ほ~、見上げた心掛けだなあ。お父さん、どっから来たの?東京から新幹線で…フ~ン…長野駅からタクシーで?
ちっとも歩いてねぇじゃねぇかこのジジイ!しょうがね~な~。転ばないように気を付けるんだぜ」
「参道には土産屋や仏具屋が軒を連ねていて、スターバックスだってあるんだよ、有利ちゃん」
「マムシさんはコーヒーよりも、飲んで気持ちがよくなる液体の方がいいんじゃない?」
「おいおい、冗談言っちゃいけないよ。俺だって浅草電気ブランばかり飲んでるワケじゃないぜ。主にホッピーを…じゃねぇや、コーヒーだってうるさいんだよ。クリープと、あと浅田飴シュガーカットも入れるな。永さんの為にも売り上げに貢献しなくちゃな。でもあのイラストの顔、なんか怖えんだよなぁ…」
「"善光寺のお朝事" は有名だな。365日毎日かかさず、日の出とともに善光寺全山の坊さんどもが束になって勤める法要だ。信者は本堂で一夜を過ごす "お籠り" をして参列したって話だが、文化財保護上それはいけねぇってんで宿坊がたくさん発展したんだとさ。
国宝で寝泊まり出来たなんて、ありがたい話だねぇ。でも年寄りは夜トイレが近いから足もと危ねえな。いくら文化財だからって、バリアフリーへの配慮はしっかりと頼むぜ」
「旅館もあるんだな。ここなんて、玄関に立派なお地蔵さんがデンと鎮座ましましていらっしゃるね」
「マムシさん、そこに泊まったらご利益があるんじゃない?」
「そうそう、寝ていると枕元にお地蔵さんが立って『おいマムシ、お前ずいぶんと世の中の役に立っているな。褒めてつかわす。極楽に招待をするので、この白装束に着替えて…』って 、オイッ‼ よしてくれよ!とんだご利益があったもんだよ」
「おうおう、仲見世通りに "マムシがくる" なんてデカデカとチラシが貼られてらぁ。まったく大河ドラマのタイトルじゃねぇんだぜ」
「まぁ、遠い親戚みてぇなモンだな。お、商店街の方々が集まっているな。やあやあ、どうもどうも、ナンマンダブナンマンダブギャーテーギャーテーハラギャーテー…ここはありがたいお寺の近くだからね、どうだいお母さん、まだ迎えは来ないのかい?」
「あたしゃ120歳まで生きるよ!」
「太えババアだなっ!永代橋の柱くらいの太さだよ、まったく。いつまでもその意気でな。…そこで横になっているくたばり損ないが居るな。お父さん、年はいくつなの?」
「モゴモゴ…9…ムグムグ…
「ハッキリしゃべれよこの野郎っ!なんだって?99歳?白寿じゃねえか、めでたいねぇ。次は111歳の皇寿を目指して頑張れよ。
…そこでブルブル小刻みに震えていて3D眼鏡を掛けたら飛び出して見えそうなヤツも居るな。あんまりイイ男を見たんで、ビックリしちまったかな。お母さん、どこで生まれたの?」
「あたしは新潟だよ」
「越後?日本海の?それでビーチサンダルで踏まれた平家蟹みてえな顔をしてるんだな。抱いてやるよ」
「マムシさん、曲の準備ができましたよ。99歳のおばあちゃんからリクエストをいただきました、三木道三で『Lifetime Respect』♪一生一緒にいてくれや~」
「無理言うなよっ!」
「立派な山門だな。掲げられている善光寺の額は "鳩字の額" と呼ばれていて、5羽の鳩が隠されているんだぜ。視聴者の皆さんはわかるかい?」
「マムシさん、ラジオですよ~」
「山門の完成は寛永三年…といえば1750年だな。現存している参拝者の落書きも、江戸時代からという年季の入りようだ。悪いヤツもいたもんだ。江戸にもいたんだね、ジェットセットラジオみたいな輩がよ。探せばバクシーシの落書きもあるんじゃねえか?」
「なんたって国宝だからね。ありがたく参拝しますよ。ついでに草葉の陰の談志を供養してやるか。
惜しい人物を亡くしたもんだ…嫌なヤツだったけど。3回くらい殺してやろうと思った事あったもんな。未遂だっただけで。駅のホームから線路に押してやった事もあったな。談志のヤツ、涙目で
『危ねぇじゃねえか、この野郎っ‼ 死んだらどうするんだ!』
って怒鳴りやがるから
『シャレのわからねえヤツだって言うさ』
って言ってやったらブスっとしてたな。ガハハ!それが、病気でホントに死んじまいやがって…ホントにシャレのわからねえヤツさ。今思えば、親友じゃなく "深友" だな…」
「おゥ、そこの子供もおじさんと一緒にお参りをしよう。さあさあ、お賽銭を用意して…マムシだけに64円と…あン?マムシのムシが64で、マはどこにいったって?うるせえガキだなっ!あんまりこまけぇと、将来オレみたいな大物になれねぇぞ。何かお願い事でもしたのかい?」
「新型ウイルスが収束しますように」
「偉いねえ、小さいのに大したモンだ。まったく、早く鎮まればいいよな。おじさんは小さい時は病弱で、発症チフスや猩紅熱なんかの法定伝染病は一通りかかってんだが、やっぱり栄養と睡眠が…あれ?お~い、子供~、ガキ~、どこ行った~。消えちまった…」
「"西方は 善光寺道の ひがん哉" お参りもすませて、気分も晴れ晴れだ。これで今年もジャイアンツの優勝は間違いなしだな。ワッハッハ」
「…あれ?境内がずいぶんガランと…えらいスッキリしてやがるな。シンと静まりかえってるじゃねぇか」
「なんだぁ?人っ子一人いやがらねえな」
「どうなってやがるんだ、まるで海の底だぜ。お~いっ、誰かいねぇか~!」
「…おかしいな。名代の観光地だぜ。おーいっ!」
「大本願だって大勧進だって、固く門が閉まっているじゃねぇか。ほんの先刻まで人がたくさん居て…外国の人だって大勢居て賑わっていたってのに、どうなってやがる………ひょっとして、もともと閉まっていたんじゃ…そんなバカな…」
「おーいっ、ジジイ、ババア!どこに行っちまったんだ。誰かーっ‼ 顔を出しやがれー!」
「ハァハァ…新型ウイルスのせいなのか?人が町から消えちまうなんて…。そんなことがあっていいのかよ…おーいっ‼ みんなー、出てこいよー!」
「春になったんだぜ、これからみんなで表ぇ繰り出してよ…花見やら歓迎会やら、春祭りやら連休やら楽しい事がいっぱい…その先にオリンピックだってあるんじゃねぇか!いったい、どうなっちまうんだ…これから、なぁ有利ちゃんよぅ」
「有利ちゃん?返事をしなよ、なあ、人が悪いぜ。オイ、有の字…
…………おやぁ?スタッフもいやがらねぇ、オレ一人だ。機材も、マイクも無ぇ。……………おかしいな。オレぁさっきから一人でしゃべってたのかな………いったい何をしゃべってたんだろう……………まあいいや…………
…魯桃桜が、あんなに咲いてやがる………………