赤蝮サンダーズのミュージックギフト!
この番組は『エーザイ』『マルエツ』ほか各社の提供でお送りします。
「マムシさん、今日は佐久市臼田城下『味蔵コロナ食堂』さんにお邪魔しております。マムシさ~ん!」
「だから、さっきから佐久って言ってるじゃねぇか。しょうがね~な~、じゃあもう一度言うからな、いいか?
『さく』…どうだ。
やっぱり違う?発音的には『裂く』じゃなくて『柵』だって?長野界隈じゃ常識?尾高型アクセント?
うるせ~なぁこの野郎‼ 尾高型だか小田和正だか知らねえが、あんまり細けえコト言ってると女にモテねえぞ!なにから伝えればいいのかわからないまま時は流れてみてえな顔しやがって。世の中たいへんだけど勉学に励んで、早く俺みたいな立派な大人になれよ」
「やあやあやあ、もうホントにねぇ、有利ちゃん。いま佐久の臼田だよ。今ね、ちょいと地元の学生と友好的交流をしていたんだよ。子どもは国の宝だからさ。ことさら地方の子どもはいいやな。自然に育まれて、なんだか純朴だね」
「いやいやいやいや、止してくれよ。もう半世紀以上前の話だよ。まいったな、誰がビョルン・アンドレセンだって?」
「誰も言ってないよ」
「しゃぶしゃぶ、ふぐ、すきやき…なんでもあるね、ここの食堂は。しかし『コロナ』って名前は、また一風変わってるね」
「ホッホッホ、ここいらじゃ『コロナさん』と呼ばれている老舗じゃよ。昭和19年からやってる」
「19年っていやあ戦中だな」
「太陽のガス層 "コロナ" から、ここの二代目が名前を取ってじゃな」
「ほ~」
「コロナといえば太陽大気っていってじゃな、100万ケルビンの高温でじゃな、100万ケルビンといえば摂氏…」
「ところでアナタどなた?」
「ワシ?そこの…」
「向かいの?ご近所の方?この野郎よく喋るジジイだな!黙って聞いてりゃあベラベラベラベラ…いくつだい?80歳?俺と大して変わらねえよ!てっきり100歳くらいかと思ったよ…五百羅漢みてえな顔しやがって。まったく…長生きしろよ」
「マムシさん、さあ入店しよう」
「これはいいねえ、コタツ席があるじゃない。冬はコタツに限るよな。これで粋な年増が横に侍っててさ、『ちょいと…』なんてんで白魚のような指でさ、こう熱燗を差しつ差されつ…」
「"うちの亭主とコタツの柱 なくてならぬがあって邪魔" なんて言うけど、マムシさんもその口じゃない?」
「そうそう、粋な年増の顔を見たらカミさんで…って、よせよオイッ!まったく…でもまあ、カミさんには頭は上がらねえな。だから毎月感謝のハガキを送ってるよ。返事はいっぺんもないけどさ。でも、こっちからくれって言うのも野暮だろう?ガハハ!」
「しかし、ここは居心地がいい店だな。気に入ったよ。カウンターにデンと据えてある『朝日山』の菰冠は、来る前に記念で俺が贈ったんじゃないの?違うか。ガハハ!
よおよお、お父さん。昼間っから飲んじゃって、こいつはご機嫌だね。どうだい、いい店だよなぁ」
「あたぼうよ、マムシィ、ヒック、オレ、この店ェご贔屓だから」
「マムシだぁ?さんをつけろよデコ助野郎!贔屓どころかピーキー過ぎてお前にゃ無理だよみてえな顔しやがって。まったく…お父さんこの近く?臼田はいいところだね」
「でっかいアンテナもあっからさ、臼田は『星の町』とも云われてらあ」
「ああ、それで近くの稲荷山公園にロケットみたいなのがあったんだな」
「あたぼうよ。『コスモタワー』ってんでよ、臼田っ子たちに大人気だぜ」
「こんなモノ公園の真ん中におっ立てやがって。しかし立派だな…お父さんはもうたたないんだろう?」
「あ、卒業しました」
「マムシさん、料理注文して、料理」
「美味いねえ、これは。長ネギが入っているかつ丼は、俺は好きだねぇ。
そういやぁ日曜の昼過ぎに食堂に入ると、だいたい『噂の東京マガジン』をテレビで流してて『やってTRY!』を観るハメになるんだが、あれはどういったカラクリなのかな?」
「平和な休日の昼下がりだよね」
「…」
「あ…ああ、起きてるよ!観てるよ!」
「テレビを点けっぱなしにして寝てるから、消そうとすると急に起きた時のお父さんのセリフだよ。今寝てたんじゃないよね、マムシさん。お腹いっぱい食べた後だから」
「寝て…何を言って、冗談じゃないぜ。曲いって、曲」
「じゃあいこう。BUMP OF CHICKENで『睡眠時間』」
「だから寝てないって!」
「いやいやいや、有利ちゃん。いいところだったな、ここは」
「臼田は『日本で海から一番遠い場所』とも云われているよ」
「海なんか遠くたっていいやな。なんたって」
「こっちは宇宙が近いんだから」
「ハハハ、ホントだねぇ」