「すみませ~ん、遅刻しました~!バイクへくくり付けるのに時間が掛かっちゃって…」「"やかん" を」
時刻はAM5:00過ぎ。
約束していた場所、長野県は高山村のコンビニ前に集合です!
高山村のセブンイレブンって、開店は6:00からなんですね。
・さかのぼるコト数日前『アルクマ復興珈琲』でも飲もうっと。
今年の7月豪雨も大変でしたが、昨年の台風19号の被害は、ここ長野県でも甚大でした。
氾濫した河川地域は勿論ですが
辿り着いたら通行止め
通ろうと思ったら通行止めと、山間部でも多大なる影響を及ぼしたのでした。
少しでも力になれればと、復興珈琲を購入して支援をさせていただきます。
あんな山道こんな山道、もう復旧しているかなぁ…大自然の中を思うさま走りたいなぁ。
「お疲れシーモア、する?」
⁉ その声は… "お疲れサマンサ" 的に使用しているだけで、絶対にシーモアをなんだか判っていないこのフィーリングは…
「ところでシーモアってなんだい?」
やっぱり。
その声は "バイクダンディズム" こと荒川さんじゃないですか!
「話は聞かせて貰ったよ。自然の中を心ゆくまま駆け抜けたいんだって?それならバイクしかないだろう?」
「そうですよね!ささ、荒川さんもコーヒーはいかが?私がドリップしたあとの物ですけど。二番搾り入りま~す」
ギューッ…
「や、ありがとう。高山村から群馬県の万座までを抜ける、県道112号 "大前須坂線" が開通して久しいね。長い梅雨も明けたし、長野と群馬の県境をまたぐ『毛無峠』まで行こうじゃないか」
「ホントですか⁉ やった~!」
「ちょっと未舗装路があるので、軽いバイクの方がいいかな」
「わっかりました~!」
というわけで、私がXR230。荒川さんがFTR223で毛無峠に向かいます。
この黄色い激渋のFTRは荒川さんの奥様の愛車。
奥様はスキあらばバイクで出掛ける荒川さんを追跡するために、わざわざ二輪免許を取得してこのFTRを購入したそう。聞けば法定速度厳守、バンク出来ずハンドルをこじって曲がるという運転で追いかけて来るというのですから、とんでもない女傑です。
ちなみにXR230とFTR223のエンジンは同系です。
奇遇ですね~。
…奥様、もうちょっとキレイに乗っても…
でも、このヤレている感じが、黙々と夫を追跡するだけの道具としての、なにやら陰々とした凄みを漂わせています。愛ってスゴイ。夫婦っていいな~。
・急行!毛無峠早朝の高山村を走り抜けます。
天気予報では朝方は雨でしたが、今のところは大丈夫。
「日頃の行いが良いからじゃないかな」
「そうですかぁ、ウフフ。先週、落ちてたゴミをクズカゴに入れたからかな…昨日は出なくなった歯磨き粉のチューブを切って、中身を取り出して使ったし…エコ」
「さ、信号が変わったよ」
112号線に乗りました。
さすがに早朝、私たち以外は車もバイクも見当たりません。
「気持ちイイですね~。よーし、このまま毛無峠までノンストップでいきますよ~!」
「ハハハ、そうしよう」
キキーッ!
「ちょっと待ってください荒川さん!」
「どうかしたかい?」
「やかんが落ちそうなんです。位置を微調整させてください!」
「それは大変だ」
実は朝食にカップラーメンを食べようと、荒川さんはバーナーを、私はやかんを持参してきたのでした。
「…これでよし。先を急ぎますよ~!」
「もちろんだ」
「毛無峠は右と…」
キキーッ!
「ちょっと待ってください荒川さん!」
「どうかしたかい?」
「標識の写真を撮りたいんで一旦戻りましょう!」
「いいだろう」
「目の前に毛無峠が見えてきましたよ。気が急いちゃうなあ」
「ハハハ、慌てなくても峠は逃げないよ」
キキーッ!
「ちょっと待ってください荒川さん!」
「今度はなんだい?」
「やかんの微調整を…」
「手伝おうか?」
「荒川さん、道が荒れてきましたよ‼ 注意してついて来て下さいよ!」
「いま僕が前を走っているよ」
ドババババッ!
未舗装路になりましたが、構わず突入です!
それにしても土が赤い。痩せた酸性土ですね。
ズザザザザー!
キキーッ!
「ちょっと待ってください荒川さん!」
「今度という今度はなんだい?」
「着きましたよ!!」
「だね」
・看板役者毛無峠の例の看板の前です。
風雨に晒され劣化が多分に見受けられますが、「群馬県」の文字が確認できますね。
荒涼とした風景と相まって、もはや一幅の絵です。
「県をまたいでの往来はご遠慮ください」どころか、ココではしちゃダメ。
この先は立ち入り禁止区域なのです。
その先には廃坑となった『小串硫黄鉱山』があります。
最盛期の硫黄採掘量は堂々の全国2位。2,000人以上の人たちが住み小学校や中学校、スーパーマーケットや遊園地もあったというのですが…
めちゃんこ山奥です!
しかし…これはこれで、人々が支えあう温かいコミュニティーが存在していたのかな。住んでいた人たちにとっては、思い出のユートピアなのかも。
昭和46年に閉山となり、繁栄した町から人々は消え、空中都市は今やゆっくりと自然に還りつつあります。
このまま、そっとしておきましょう。
まだまだ早朝ですが、人が集まりだしてきましたね。
撮影スポットである看板前から、他の人の邪魔にならないようバイクを移動して、さあお待ちかねの朝食です!
・たまには外で朝食を真夏なのに、毛無峠の朝は寒いくらい。
さっそく熱々のラーメンで体を温めるコトにしましょう。
荒川さんがバーナーをセットしていますね。面白そう…
「なにか手伝うコトはありますか?」
「いや、大丈夫」
「ポンピングやらせ…手伝わせてください!」
シュコシュコシュコシュコシュコココ…
「それくらい…それくらいにしておこう」
「ギャー!荒川さん、火事です、火事‼ ファイヤー!」
「10秒くらいで炎が安定するから落ち着いて」
ジャ~ン!
私が大事に持って来たやかんの雄姿をご覧ください。水を入れると安定感がグッと増し、動かざること山の如しです。
カップラーメンは私のチョイス。
「煮干しラーメンと貝だしラーメンだね」
「山なのに海鮮…奇をてらってみました~」
「ハハハ、これは傑作だ」
「気圧が下がれば沸騰点も下がるといいますからね。やかんの湯がグラグラ沸き始めましたが、ここ毛無峠は標高16,00mほどですから、沸点は95℃くらいかな。平地に比べればお湯の温度は…やっぱり熱い!」
「ん?今、僕のラーメンに指を入れていなかったかい?」
「荒川さん、付属のふりかけを忘れていますよ。そのまま "MEGAにぼ" を持っていてください。今、入れてあげますから」
サラサラ~
「…強風で3分1くらい飛んで行ってしまったが…うん、ありがとう」
スープは捨てられないので、もちろん完飲です!ゲップ
楽しかった~!
毛無峠、ありがとう。
ああ、もうあんなに小さく…また来るね!
「さあ、私たちの町に帰るとしましょう!」
「住めば都さ。そうするとしよう」
キキーッ!
「やかんの微調整を…」