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ドカッとドコ行こう

略して ドカドコ!

『黄金雪隠』

 

「おめえか、新しく入ってきた野郎ってのは。オイ、名前はなんてんだ」

「へい、マルコ・ポーロっていうケチな野郎でござんす。以後どうぞお見知りおきを」

f:id:inakakaoru:20210904164915j:plain「まァ、何をやらかしてここジェノヴァの牢獄にぶち込まれたか知らねえが、なんでもおめえ、『黄金の国』に行ったなんて吹聴して回ってるそうじゃねえか、ええ?」

「こりゃあ、牢名主の親方の耳にまで入ってるとは恐縮で…他でもねえ黄金の国に行ったってなァ、まあその通りなんで。ええ、なんしろね、あっしが行ったのは『ジパング』っていう東方の島国の『イイヤマ』っていう町でして」

「ほぉ…ジパングのイイヤマ。なんだかヘンテコな地名だな」

 

・黄金の国

f:id:inakakaoru:20210904165242j:plain「そのイイヤマのとなりに、ワルイヤマっていう町がありましてね」

「ワルイヤマ?そりゃあガラが悪そうじゃねえか」

「ええ、親方みてえな」

「殴るぞ、こん畜生」

f:id:inakakaoru:20210904195327j:plain「そのワルイヤマが何だってえとワーワー攻めてきやがるんで、仕方ねえってんで堅牢な城で守ってるっていう城下町なんでさあ」

「ふ~ん…なるほどなぁ、ヴェネチアジェノヴァみてえなもんだな。そいつァ難儀だな」

f:id:inakakaoru:20210904201619j:plain「そのジパングの住民ってのが気のいい連中でしてね、その辺にある木だの石だのにも神様が宿ってるだなんて信じていて、そりゃあ信心深いのなんのって。確か八百万くらい居たかな…神」

「居すぎだろ、神!うちのカトリックの奴らが聞いたら卒倒しちまわァ、そんなに居たら」

f:id:inakakaoru:20210904210812j:plain「しかしマルコ、そんな大人しそうな住民どもが何だってつまらねえ争いを…あん?ああ、そこで黄金が絡んでくるっていう話か」

「まったくお察しの通りなんで、親方」

 

・黄金のトイレ

f:id:inakakaoru:20210904212954j:plain「だがよ、イイヤマって所はそんな風に人の心を惑わすくれェ、結構なお宝がある場所だってのかよ」

「ケッコウもニワトリもねえんで」

「ケッコウ…ニワトリの鳴き声はここイタリアじゃキッキリッキーだろ?」

f:id:inakakaoru:20210904231354j:plain「なんたってイイヤマじゃあ、あの高価な黄金を引き延ばしてトイレに貼っつけて、連中ご満悦で用を足しているってェくれえの威勢なんですからねぇ」

「黄金の使い方が途方もねェな。イイヤマはどこのトイレもそうなのかよ」

f:id:inakakaoru:20210904232019j:plain「全住民の家がそうです」

「ホントかよ⁉ にわかには信じられねえな」

「自分、見聞しましたもんで」

「じゃあしょうがねえな」

f:id:inakakaoru:20210904232556j:plain「トイレはエビアンで流してます」

「ホントかよ⁉ そりゃあ贅沢な…ん?エビアンてなんのことだ?マルコ」

「え?なんです、親方。今なにか仰いました?」

f:id:inakakaoru:20210905001309j:plain黄金は無尽蔵にあるが、国王は輸出を禁じている。しかも大陸から非常に遠いので、商人もあまりこの国を訪れず、そのため黄金が想像できぬほど豊富なのだ。

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ヨーロッパの教会堂の屋根が鉛でふかれているように、トイレ内はすべて黄金が貼っつけられており、その価格はとても評価できない。

f:id:inakakaoru:20210905001239j:plainその黄金の中で "黄金" をするのだから、このトイレの豪華さは、まったく想像の範囲をこえているのだ。

f:id:inakakaoru:20210905001222j:plain現在の大ハーンのフビライは、このイイヤマが極めて富裕なのを聞いて、占領する計画を…

「おいっ!マルコ。やいっ!マルの字」

「へい、親方、なんでござんす?」

「なんだじゃねえよ、急に一点を見つめながらおかしな口調でベラベラ喋り始めやがって…おめえ、どっか悪いんじゃねえのか?」

「安心してくだせえ、こちとらヴェネチアじゃ名うての健康優良不良商人。血気盛んで献血の常連。赤え血が出なかったら赤えのと取っ替えてやるって、西瓜野郎ッてのはあっしのことを言うんで」

「なにを言ってやんでえ。この野郎、威張ってやがら。とにかくちゃんと休んで、しっかりメシ食えよ」

 

・幻の蕎麦

f:id:inakakaoru:20210905083341j:plain「メシと言やァ親方、イイヤマの連中の食べ物といったら、これまた変わってるんで」

「そんな裕福なとこならよ、食いもんもそりゃァさぞかし豪勢ときてるだろうよ」

f:id:inakakaoru:20210905083902j:plain「それが『ササズシ』といわれる食べ物と」

「ササズシ?」

f:id:inakakaoru:20210905084159j:plain「まあ、うちで言ったらリゾットが葉っぱに乗ってるみてえなもんで」

「なんだか想像がつかねえな」

f:id:inakakaoru:20210905084309j:plain「あとは『トミクラソバ』という麺類。これしか食べてません」

「ホントかよ⁉ 連中、えらい質素じゃねえか」

「自分、見聞しましたもんで」

「じゃあしょうがねえな」

f:id:inakakaoru:20210905084354j:plain「このトミクラソバってのが一風変わってましてね、つなぎに『オヤマボクチ』なんていう植物の葉っぱを使ってまして、マジのツルツルのシコシコ、口触りから歯切れ、喉ごしまでそりゃあぁイイのなんの、喉ごし大学主席卒業なんじゃねえかってくれえで」

「どんな大学だよ」

「"幻のソバ" なんて言われてるんで」

「行って食ってみてえなあ」

 

・地方見聞

f:id:inakakaoru:20210905090601j:plain「見聞はいいもんでさぁ、親方」

「ああ、妙な流行り病が治まって、また気兼ねなく出掛けられるようになったら、色々なところに行きてえもんだな」

「そン時はお供しますぜ」

「いいのかよ」

f:id:inakakaoru:20210905084445j:plain「スタンド・バイミーでさァ、ねえ。♬ "When the night  あそこ~" 」

「そうだなァ…ん?スタンド・バイミーってなんのことだ?マルコ。あと、あそこってなァなんだよ、おいっ!マルコ。やいっ!マルの字」