「なんやワレ、サブやないか」
「最近おやっさんの姿を見ないんで、様子を見てこいって叔父貴からのいいつけでして…」
「"すていほーむ" ちゅうやつや。お前も心掛けなあかんぞ。え~っと…"くぬらた やれいい…」
「あの…おやっさん…いったい何をつぶやいて…」
「サブ…お前、平成生まれやったな。突然ワシが頭バグったとでも思たんか。いま、ワシ、なにしてるように見える。え?」
「へ…へえ…」
「FC版『飛龍の拳』のふっかつのおうぎをメモしとるんとちがうんか!えっ?」
「は…はいっ…。えらいすんまへんっ!」
「ボサッとしとらんと、お前も手伝わんかい。ん~っと…"やれいい…」
「へえっ」
「かつてカルチャーブレーンより発売された格闘アクションゲーム『飛龍の拳』シリーズはFC版に限るな。音楽が最高や。この格闘パートのBGMなんか、ごつい面談時か何かで頭の中にときどき流れるな」
「はぁ…」
「だが、シリーズを通してやってみて、気になった事がある」
「なんです?」
「まずは『飛龍の拳 奥義の書』いわゆる初代やな。ゲームスタート時に難易度を選べるんやが
こども よう
ぷろ よう
の二択だけや。まあ "こども" はわかる。だが "ぷろ" ってなんやねん。発売された1987年当時、金の匂いがするプロといったら高橋名人や毛利名人と相場が決まっとる。そんなゴッドハンド用と子ども用しか選べないとは、いったいどういう了見や。中間はないんかいっ‼」
「へえ…」
「次はシリーズ二作目『飛龍の拳Ⅱ ドラゴンの翼』や。さっそく難易度を選ぼうとすると
マニアよう
チビッコよう
と "ぷろ" から "マニア" に変更はあるが、やはり中間はナッシングや。プロよりもマニアという呼称の方がなにやら業が深そうやな。ゲーム道を極めようとまさに極道となり、宿題そっちのけで夢中になってしまったキッズもいたんかいのう…」
「へえ…」
「最後は三作目『飛龍の拳 五人の龍戦士』や。ここにきてやっとチビッコとマニアというふり幅の大きさから解放されて
ふつうモード
と中間が選べるようになる。だが見てくれ。コントローラーのそうさに
ビギナー
マスター
と新たになんか加わっとるやないか。まるで焼き方にうるさいステーキハウスみたいやないけ。んなもん、いいようにそっちで焼いてはよ肉食わさんかいっ!」
「へえ…」
「部屋に籠ってばっかりも体に毒やな。ストレッチしよ。筋肉の柔軟性は裏切らないって誰かも言ってたしな。サブ、お前も後に続け。ウ~ン」
「おやっさん…こ、こうでっか?ウ~ン…」
「何をやっとるんや、どんくさいやっちゃ。こうや」
「ウーン…」
「こ、こうでっか?ウ~ン…」
「なにお…こうやって腕を伸ばして」
「ウ~ン…」
「このへんで堪忍してください。おやっさん」
「バイクのオイル交換でもするか…」
「乗ってるの空冷ばかりでっさかい、オイル管理に苦労しまんな。おやっさん」
「こいつ、他人事みたいにぬかしやがって。オイルの準備は出来てるんやろうな」
「へえ、そりゃあもう」
「いつもの『シェル アドバンス 4T ウルトラ 15W-50』です」
「この真ん中の赤いカンカンはなんや?」
「巣ごもり中のおやっさんに元気出して貰いたくて『レッドブル レッドエディション』も用意しましたよって、クーッやってください。ホンマよく効くんですわ、"翼を授ける" なんちゅうて…」
「よく効く…おんどれ、サブ!このガキャ、あれほど言うたのにまた薬を…」
「ちがいますがな。エナジードリンクですんで」
「冗談や冗談。これは日本未発売やったヤツやな。海外での末端価格は…」
「末端てなんですの」
「オイル交換するだけでも、いい気分転換になりまんな。おやっさん」
「……サブ、ワシ、もう我慢でけへん。バイク乗りたい」
「きゅ、急にどないしやはったんで。さっきまでステイホームや言うてはりましたけど…」
「フルスロットルでハイウエイをぶっ飛ばしたいんや!」
「な、なんでっか?この飲み物は?」
「お前、UCCがかつて世に送り出したコーヒー入り炭酸飲料『フルスロットル』も知らんのか?」
「モンスターエナジーとコーヒーのマリアージュ『モンスターコーヒー』くらいは知っとるやろ?」
「なんとなくほのかに淡く記憶の断片の中から指先に感じられるような…」
「ETCだって付いとるんやぞ。もう高速道路のチケットを、後続車に気兼ねしてとりあえず口にくわえて走り出す必要もないんや!」
「またバイクの話し…忙しいな。遠出は御法度や言うて、みんな我慢してはります」
「タイヤ交換だってしてあるがな!」
「パンクした後、簡易修理したタイヤでしばらく乗り回してはったんで "自分で修理したタイヤやさかい愛着わいたん違うか" なんてみんな言うてましたよ。おまけに 『スポルテックM7 RR』に替えたら、M9が発売されるという間の悪さ」
「メッツラーめ‼ いつもありがとさん!」
「ほならバンテリンでお馴染みのコーワが売っている『パワードコーヒー』っちゅうのはどや?」
「羽田空港とかに専用自販機があるんですね、知らなんだ。でも、CMに出演していたアーノルド・シュワルツェネッガーはんやブルース・ウィルスはんも、いつの日かまた羽田や成田に降り立って日本にお邪魔できるよう、アメリカの地で頑張ってステイホームしたはってるん思いますよ」
「…シュワちゃんまで『あいる・びー・ばっく』言うて頑張ってたんかいな………ようわかった。サブ。ワシが悪かった」
「おやっさん…」
「バイクやめて、ドライブにしよ」
「もうええわ! どうもありがとうございましたー」