店舗に染みついたカプサイシンの臭いに惹かれて、危険な奴らが集まってくる。
ここの店の名物は、『天国ラーメン』と『地獄ラーメン』
先へと続くこの道が、輝く未来のためにあるとしたら。
苦闘の末に、栄光があるとしたら。
今日という日が、明日のためにあるとしたら。
天国はこの地獄の隣にあるはずだ。
だが、今日という日が、昨日のためにあるのだとしたら
地獄を見れば こころがかわく
ここの地獄ラーメンは辛さを選ぶ事ができる。やるか、やられるか。食うか、食われるか。それも自分次第。
通常編「地獄1丁目」
汗だくだく「地獄2丁目」
もう限界「地獄3丁目」
保険入ろう「地獄4丁目」
食べたら危険「地獄5丁目」
とおよそ食べ物の表現とは思えぬ言葉がタピスタリーを描き、辿りつく果ては
店主が責任を取らなくなる「地獄無限」
目指すべきは何。打つべきは何。そして我は何。
地獄4丁目を無保険のカヲルが走る。
ちなみに、これが地獄の1丁目。
辛さ通常と言っても、劇的なるものが牙をむく。辛さが苦手な者たちは、ある者は悩み、ある者は傷つき、ある者は自らに絶望する。
友よさらば。
地獄4丁目が姿を見せる。
具のネギまで赤、赤、赤。炎熱のジャングルが狂気をはらむ。
降り注ぐ鷹の爪。舞い降りるカプサイシン。
欲望と秘密と暴力の店、ラーメンショップ丸子店が燃える。
だが戦いは興奮を約束する。それが絶望的ならなおさらのこと。
圧倒的…ひたすら圧倒的パワーが口中を蹂躙しつくす。
むせる
怒涛の辛味とかすかな旨味、退廃と混沌とをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここは地獄の4丁目。
薄れゆく意識の底に、仁王立つ数々の香辛料。
だが、俺は攻め寄せる地獄ラーメンに感謝していた。戦いになれば嫌な事は忘れていられる。忘れるために戦い続ける。そしていつかは…
丸子での旅が終わる。
振り返れば遠ざかる赤の地獄。
ここは『丸山珈琲 小諸店』
激辛を潜り抜けた時、突然現れた一刻の安らぎ。
地獄4丁目から帰還した俺の舌のライフはゼロ。
エスプレッソをアイスにかけた、アフォガードを口にした時、突然現れた一刻の安らぎ。
もう止められる者はいない。
カヲルが食べる丸山珈琲のアフォガードは冷たくて甘い。
次の旅が始まる。
天に軌道があれば、人には運命がある。
日々に追われ、バイクに揺られ、辿りゆく果ては何処。
次回「再戦」
トイレの中で稲妻が走る。