さよならはいったはずだ 別れたはずさ
純正のタイミングベルトカバーと別れを告げたのだったが
用意したカーボン製カバーが、なんとモンスター1100EVOのそれではなく、696/796の規格だったというお粗末な顛末。
"バイクのカスタム"
歴史の果てから、連綿と続くこの愚かな行為。
ある者は悩み、ある者は傷つき、ある者は自らに絶望する。
だが、営みは絶えることなく続き、また誰かが呟く。
「カーボンパーツってなんかカッコいい」
神も、ピリオドを打たない。
食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。質を問わなきゃなんでもある、あらゆる悪徳が武装する、ソドムの市ことネットオークションで手に入れた一対のパーツ。
いよいよキャスティング完了。
『RED MAMUSHI』でエナジーも補給。
瓶の赤まむしの赤はもっと暗い、血の色だ。
人の運命は神が選ぶ双六だとしても、上りまでは一天地六の賽の目次第。鬼と出るか蛇と出るか。
「お待たせしました‼ 超美品!」
と共に並ぶ
「3N」
ノークレーム・ノーリターン・ノーキャンセルの冷徹な文字。
明日を買うのに必要なのは、ワンクリックと少々の危険。今回は賭けに勝ったらしい。ぴったりジャストサイズ。
抗えぬカーボンの魅力。放たれた雷は誰を打つ。
人は流れに逆らい、そして力尽きて流される。
地獄を見れば こころがかわく
店舗に染みついたカプサイシンの臭いに惹かれて、危険な奴らが集まってくる。
ここの店の代名詞は、その名も『地獄ラーメン』
苦闘の先に、栄光があるのなら。今日という日が、明日のためにあるのなら。天国はこの地獄の隣にあるはずだ。
だが、今日という日が、昨日のためにあるのだとしたら。
地獄ラーメンは辛さを選べる。やるか、やられるか。食うか、食われるか。それも自分次第。
「通常編」は "地獄1丁目" と名称されるが、スープを美味しくいただけるのは残念ならが「汗だくだく」 "地獄2丁目" までだ。
「もう限界」 "地獄3丁目" からデスソースが投入される。最も危険な罠、それはデスソース。たくまずして仕掛けられた丼の中に眠る殺し屋。それは突然に目を覚まし、偽りの平穏を打ち破る。
辛さ最強として君臨するのが "地獄無限" だ。 「責任とれません」と店主も職務放棄をするほどの危険な不発弾だ。
だが、戦いは興奮を約束する。それが絶望的なら、なおさらのこと。敢えて火中の栗を拾うか…よし
「保険入ろう」"地獄4丁目" をいただこう。
ちなみに、これが地獄1丁目だ。
辛さ通常と言っても、油断することなかれ。辛さが苦手な人達は、安易に頼んではいけない。自爆、誘爆、ご用心。
地獄4丁目が姿を見せる。
赤、赤、赤。敵の血潮で濡れた器。地獄の部隊と人の言う。
狂気のようなラーメンの闘志。それに比べて俺の心は燃えはしない。俺が敢えて受けて立つのは、その哀れな闘志を癒すためかもしれない。
圧倒的…ひたすら圧倒的パワーが口中を蹂躙しつくす。
むせる
激辛の中で明滅するうま味。無邪気と野心、退廃と混沌とをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここは地獄の4丁目。
だが、俺は攻撃してきたラーメンに感謝していた。戦いになれば嫌な事は忘れていられる。忘れるために戦い続ける。そしていつかは
短い休日が終わる。
振り返れば遠ざかる赤の地獄。
疲れた魂は、戦いに安息を求める。
ここは『丸山珈琲 小諸店』
そっとしておいてくれ
やがて破られるであろう、しばしの安息を。
店内で焙煎している。その様はまさにファクトリー。
世界各地から、その生産国、祖国の誇りと威信とを背にし送り込まれたコーヒー豆たち。それに立ち向かうバリスタたち。ファクトリー、いやここはコレッセロ。ギラつく拳闘士たちが死力を尽くし、ただ己の存在意義を賭して激突する。
地獄4丁目から帰還した俺の舌のライフはゼロ。
丸山珈琲のコーヒーは苦い。
エスプレッソをアイスにかけた、アフォガードを口にした時、突然現れた一刻の安らぎ。
次の旅が始まる。
天に軌道があれば、人には運命がある。
日々に追われ、バイクに揺られ、辿りゆく果ては何処。
次回「雪隠詰め」
明後日、そんな先のことはわからない。