ザーン…ザーン…
「ここはどこなんだ…」
気付いたらボクは海辺を歩いていた。
そして
「ボクはだれなんだ…」
どこから来て、何をしていたのか、まったく思い出すことができない…
ここは…もしかしてイングランドのケント州シアネス海岸…よく思い出せないけど
「散歩が?なじらね?」
「なじ…?ご老人、ここはどこですか?」
「ここは新潟の直江津だて」
新潟?…直江津?…直江…こども店長…うう…よく思いだせない…
「たまげたな、モノを思い出せないなんて、そりゃめじょげらだぁ。じょうや記憶喪失だな」
「あの…ご老人…その…めじょ?じょう?」
「なじょもなじょも。だら、そんま絵を描いてみ。なにかわかるかも。さ、紙と鉛筆だ」
老人に言われるまま、ボクは無心で絵を描いてみた
サラサラ…
「無意識のうちに描き上げましたが、これはいったい…なんなのでしょうか?まったく思い出せない…」
「これは…バイクだて…大型だな」
「その…たいして大きい様には…自分で描いてなんですが」
「とにかくおめさんは記憶の無いなかバイクを描いた…これはごうぎな事だて。おめさん、名前は?」
うう…思い出せない…思い出そうとすると頭が締めつけられるようにキリキリと…
「そしたらおめさんの名はバイクマンだぁ!」
「バイクマン!」
なんだよバイクマンてーっ!
バイクがなんなのかさっぱり思い出せない…
バイクという言葉からは
自由や楽しさ
風や振動
寒い時期の温かい缶コーヒーのありがたみとその後に襲いくる尿意
などを感じることができる…でもやっぱり思い出せない
海よ‼ 母なる海よ!
教えてくれ、ボクは何者で、これから何をすればいいんだ!
うう…思い出そうとすると頭が…頭がーっ!
お腹もーっ!
悩んでいてもお腹は空くもの。彷徨いつつ、あるお店の前にたどり着いた。
上越市『たちばな』の "とん汁"…とん汁がなんなのか思い出せない…
確か…"ぶたじる" なら『あしたのジョー』の東光特等少年院の献立にあったはず…メチャメチャ美味しそうだった記憶が…そして、主人公の矢吹丈が、爆走する豚に乗って少年院から脱走を試みる通称 "とんずら" をキメて…豚に乗る…乗るはライド…バイク…うう…頭がーっ!
「いらっしゃいませ~」
「あ、この "とん汁ラーメン" ってのをください」
ズルズル…これは美味い!玉ねぎトロトロ、じゃがいもホクホク、甘いお味噌だけどニンニクも効いていて…なによりホカホカ温まる!
ごちそうさまでしたー。
足が勝手に山の方角に向かってしまう…
この先でいったい何が…ボクを引きつけ、いざなおうとしているのか…わからない…
雪か…雪といえば
確か…冬の真っ只中の2月に、路面凍結だろうが積雪だろうが各々のバイクにスパイクタイヤを巻いて、東京~富山間を下道限定24時間内で往復するという "キングオブフルーツラリー(KOFR)" なるデス・レースがあったっけ…いつかエントリーをしてバイクに…バイク…うっ、頭が締めつけられる!
『エナジーボンバー』というドリンクを飲んで落ち着こう…ゴクゴク…ふ~
はッ!なんだこれは…雪だるま?手が勝手に動いて……雪だるまといえば…
確か『スノーブラザーズ』というアクションゲームがあったっけ…今は亡き東亜プランの制作だったはず…
東亜プランといえば『ダッシュ野郎』というレーシングゲームもあったっけ…コース上に車やトラック、路面電車なんかがバンバン走っていようがイッコーお構いなし。街中をバイクに乗って常時フルスロットルでライバル達と激走する怒りのデス・ロード。次はあなたの街に行くかも、なんて…バイク…うっ、頭がっ!
気付いたら妙高市『妙高山麓直売センター』の前にたたずんでいた。
ちょっと寄ってみよう。
手作り漬物か…よく漬かっていて美味しそ…ん?
中身は漬物なのに、シールには「そば団子」って表記されている!どうなっているんだこれは…バイク…うっ、頭が!
バイク関係ないか。
「笹ずし」か。
熊笹に盛られた酢飯の上に色々な山の幸がのっていて、これまた美味しそう。
確か…上杉謙信のお弁当だったなんて伝承で長野では「謙信ずし」とも呼ばれて…長野……長野ってなんだ。なんだか懐かしい…
"ふきのとう" がこんなにたくさん!スゴイ!安い!新鮮!
天ぷらにして食べようかなぁ…ふき味噌もいいなぁ…
暖冬とはいえ朝夕まだまだ寒いけど、春は確実に近づいているんだなぁ。帰ってガレージにほったらかしてあるバイクに久しぶりにまたがってみ…ハッ!
思い出したぞ!!
私は雪国のバイク乗り。
冬眠させているバイクの調子をそろそろ見ないと!
長野の冬があんまりにも長いんで、バイク乗りとしての記憶が無くなっていたのでしたー!あと若干の物忘れも。いけないいけない。テヘ。
長野に戻り、早速ガレージに向かいます。
手に入れたままほっぽっといたコンフォートシートを見ながら、ツーリングのイメージトレーニング(妄想)でもしようっと…どれどれ…
カビてる~っ!
車のシート用クリーナーで大丈夫かな…フキフキ
これでよし!
それでは春に向けてSharp Up!!
ぶっちぎりthe monomane 20 (TOKUMA COMMUNICATIONS CASSETTE)
- 作者:若人 あきら
- 出版社/メーカー: 徳間コミュニケーション
- 発売日: 1988/10
- メディア: 文庫