「という訳で、最近の写真加工技術ってスゴイんですよ~、荒川さん」
「またまた急な話だねぇ…カヲルくん。写真加工って、いったい何をしてるんだい?」
「今ですね、携帯で撮った写真を整理していたんですけどね」
「ああ、これは新潟県へバイクで行った時の写真だ。天気も良くて、最高だったよ」
・日本で一番海に近い駅(のひとつ)
「途中で青海川駅へ寄ったじゃないですか」
「うん、柏崎市にあるJR信越本線の、とても風光明媚な駅だったね」
「そうですそうです、なんたって青海川駅は電車からホームに降り立った瞬間、ハイもうパノラマオーシャンビュー!ハイもう最高ー!」
「初見の人はきっと驚くだろうね」
「潮風が優しく私の頬を撫で…」
「潮の香りがしていたっけ」
「潮騒が心地よく私の耳をくすぐる…」
「そこはもう砂浜のようだったよ」
「波音がまるで意識高い系の歯医者さんの待合室みたく…」
「そんな環境音楽が流れる歯科医へ通ってるんだ」
「という青海川駅だったんですが、ああ…これはいけない...いただけません」
「ん?なにがダメなんだい」
・写真に様々なものが写り込む問題
「電線ですよ、電線!駅と海が見事に調和した最高のフォトスポットが、無粋な黒い線でも〜台無し~」
「架線から電力を供給された列車が通る駅なんだから仕方ないけど、言われてみれば邪魔な様な気もしてきたね」
「そこでスマホの登場です!使ってみるとスマホってホント超便利!まさに現代の魔法のランプですね、この板」
「最近までガラケユーザーだったカヲルくんが、すごい変貌ぶりだねぇ。グループLINEで連絡しようにも、一人デジタルデトックスと言い張って皆を困らせていたのに」
「アルミホイルで作った帽子を被らなくてよかった…」
「それは本当によかった」
・消してやるのさ。そう、消しゴムマジックならね
「これこれ、この『消しゴムマジック』という妖の術を使うとですね…」
「Googleフォトで使用できる機能だね。先月からGoogle Pixelユーザーじゃなくても使えるようになったんだっけ」
「消しゴムマジーック!これこの通り、綺麗サッパリ電線が無くなっちゃってイッツア・ファインビュー!おお、まるで一幅の絵を見ているよう」
「ほ〜、これは確かに凄いね。消す対象をAIが選んでくれるのも嬉しい機能だ」
「颯爽と駅に入って来た信越本線新潟方面行列車の、この写真に写り込んだ邪魔なアレだって…」
「ふむふむ」
「消しゴムマジーック!」
「もはや電車の動力なんてどうでもいいのが潔いねぇ」
「男一匹荒川さんが日本海を望むこの一枚だって」
「ポーズの指定までされたんだよね」
「消しゴムマジーック!」
「まさかの僕の方が消えるとは.」
「ただ、この魔法のような消しゴムマジックなんですが、残念なこともあるんです…」
「なんだいカヲルくん、急に遠い目をして」
「世界各地の貧困や紛争問題を消すことはできないんです…」
「重い…急に重いよ、カヲルくん」
・境界線を引く人間になるな。消す人間になれ
「昼に食べた新潟ラーメンも美味しかったですよね~」
「新潟5大ラーメンのひとつ『燕三条三条背脂ラーメン』だね。美味しかった」
「スープも麺も脂ギトギトなんですけど、不思議と食べやすい。シャキシャキの玉ねぎも相まって、箸が止まらない~」
「一説には背脂チャッチャ系の元祖とも言われているだけあって、しっかり味が練られた完成度の高いラーメンだよね」
「でもカロリーは…アワワ」
「ラーメンを食べる時くらい野暮なこと言いっこなしさ」
「消しゴムマジーック!」
「カロリーも消せないから」