「どう?最近『どさん子』行ってる?」
「急になによ、カヲル。えっと…『どさん子』って、ラーメンの?」
「そうそう。その『どさん子』にね、行ってきたんだ」
「ふ~ん。札幌ラーメンで有名なチェーン店だよね、みそラーメンの。言われてみれば、ぜんぜん行ってないなぁ」
「そこの店ではね、大量にお肉が乗ってる『肉みそラーメン』がオススメだから、それいただきました~」
「アンタ肉食系でも草食系でもなく、お菓子食系のくせにそんなの頼んだんだ」
「みそは濃厚でまろやか、麺はエッジが効いててコシがあって、大満足でした。マキも行った方がいいよ、上田のバイパス店」
「ん?ちょっと待って、カヲル」
「その店って『どさん子』じゃなくて、『どさん娘』じゃない?」
「え?なにそれ。どゆこと?」
「アンタがラーメン食べた店は『どさん娘』で、残念ながら『どさん子』とは似て非なるものってこと」
「え~!だって同じ札幌ラーメンじゃん。みそラーメンがオススメじゃん」
「そうなんだけど、最初に『どさん子』が流行らして、その後に別の会社が『どさん娘』を立ち上げたんだから、両者は別の店だよね」
「え~!マジかぁ」
「当初『どさん娘』の呼び方は『どさん娘(こ)』だったけど、元祖の『どさん子』に訴えられて『どさん娘(むすめ)』に変わったんだよね」
「え~!『どさんこ』ってよんでたよ~!もう…コホン…『どさんむすめ』(キリッ)…語呂ワル~!!」
「じゃあさ、マキ。佐久の望月にある札幌ラーメンの店も…」
「ああ、あそこね」
「娘だね」
「子じゃなかった~!」
「あの店のみそラーメンも、めちゃ美味しかったけど…」
「丼の縁に書かれた店名は…確かに『どさん娘』だ」
「でしょ」
「騙された…」
「アンタ騙してなんの得があるのよ」
「あ!! そうだ、同じく佐久の長土呂にある店は『どさん子』だったよ。娘じゃなかったはず」
「ああ、長土呂ね」
「当然みそラーメンを食べたけど、なんだか優しい味だったなぁ」
「まァ、あそこは『どさん子』は『どさん子』でも」
「『どさん子大将』だから」
「今度はなにか追加されてた~!子のあとに~!」
「『どさん子大将』も『どさん娘』と同じで後発組だから、『どさん子』とは違うよね」
「ううう…後から来たくせに名前に大将なんかつけて、偉さでマウントを取ろうなんて…長土呂の店長ひとの良さそうなおじいちゃんだったけど、今度は関白でも名乗ろうと厨房で野心を燃やしてなんかいて…弱火でコトコトと」
「あの店長が『どさん子大将』を始めたワケじゃないでしょ」
「じゃあさ、じゃあさ、マキ。十日町にある『どさん子』は…」
「アンタ『どさん子』好きだねぇ…ん?」
「あれ?…『どさん』」
「ちょっと、店名に子や娘すらついてないじゃない!なんなのよ『どさん』て」
「だ…」
「騙されたー!」
「アンタが勝手に『どさん子』だと思って入ったんでしょ!」
「『どさん』とくれば、『子』へと繋がると思うじゃん!! 美しい地球を、子ども達に繋げなければならないように!」
「知らないわよ!」
「でねマキ、ここでもみそラーメンを頼んだんだけど」
「みそラーメンも好きだよねぇ…」
「ここのは、麺プリップリのツルッツル。スープはみそと脂の甘味が絡み合って濃厚。なにより野菜の炒め具合が素晴らしくて、油の香りもとってもイイ感じ~」
「ふ~ん。美味しそうじゃない」
「だけど、ここも『どさん子』じゃなかった…嗚呼」
「エルドラドでも探してたような落胆ぷりだけど、相手はラーメンチェーン店だから。フツーの」
「ホントにこの世にあるのかな」
「あるから。その辺に。アンタがなんか勝手にスルーしてるだけで」
「でもカヲル、美味しかったんでしょ?」
「美味しかった。また行きたい」
「だったら良かったじゃない、えっと…『どさん』だっけ。やっぱり何か物足りない名前だわ」
「そうそう。『どさん』の後に『子』が足りなくなるなんて…」
「これが少子化問題か」
「誰かチャーシュー1枚持ってきて」