「カヲルさん、行かれたんですってねぇ。どんな様子だったのかしら?」
「ええ、ええ、お義母様。それはそれは結構なものでした」
「さぞや賑やかだったでしょう?」
「七年に一度の信州は "善光寺御開帳" ですから、ええ、それはもう大変な盛況ぶり。まったくもって非常に立派なもので、おかげさまで貴重な体験をさせていただきました」
「あらあら、それは羨ましいこと。ほんに、ご利益があるといいですわねぇ」
「お義母様のご長命も、僭越ながらお祈り申し上げておきました」
「まあまあ、それはご丁寧に。嬉しいわねぇ。謹んで御礼申し上げます」
「いたみいります」
「お土産までいただいてしまって、気を使わせて何か申し訳ないわねぇ」
「どうぞお気になさらず。ええ、信州土産といえばお義母様の大好きな『八幡屋礒五郎』の七味唐辛子だと思いまして。善光寺参道にある本店で、所望させていただきましたの」
「八幡屋の七味は、ほんに風味がよくて…『拉麺七味』あら?カヲルさん、なんだか珍しい商品だこと」
「そうでしょうそうでしょう、『ラーメンに七味なんて合うのかしら?』などと私も思いまして」
「そこでカップヌードルで試してみようと…」
「あら、カヲルさん。いわゆる即席麵なんて、よく口にする事があって?まさか息子に…」
「なにを仰います、お義母様。わざわざ買ってきたのですよ、わざわざ。オホホホ」
「ほぉ…七味というより胡椒っぽいのね」
「ではカップヌードルにこのラーメン七味をば一袋、こうパラパラと振りかけてみます。味の変化が楽しみですわねぇ、お義母様」
ズルズル…
「こ…これは…お義母様…」
「一気にパッキャオばりのパンチが効いて、たいへん美味しゅうございます!」
「ええェ…そんな急激にラーメンの味が変わり、格が上がるなんてことが…」
ズルズル…
「美味しーい、これ‼ もうカップヌードルじゃありませんのことよ!」
「カップヌードルじゃありませんねえ」
ズルズル…
「マジ、コレ美味いじゃん!」
「すでに中華でもなくてよ」
ズルズル…
「ホント、ばちこりオススメ!」
「デザートにまで⁉」