ええ、いらっしゃいまし。本日はまあ、こんな山の中までお越しになっていただいて、ありがとうございます。
車でお越しに?それはそれは、大層お疲れのことでしょう。まずはお茶でも…ええ、この辺ではお茶請けに漬物を出すんですよ。なんだか都会の皆さんは珍しがって、ホホホ。
ありがとうございます。とても静かでいい所だなんて、フフフ。でも、田舎の取り柄と云ったらそれくらいなんですよ。都会と違って人も少なくて…はい?それがいい?それを求めてやって来た?はあ…
え?『こしあんバー』を知ってるかですって?あのアイスの、『あずきバー』の井村屋の?こしあん…ああ…確か
今風に言えばドラッグストアというのですか、薬局のウェルシアで売ってましたが…
あっ!お客さん、急にどうしました?慌てて立ち上がったりなんかして。まぁまぁ、どうぞ落ち着きなさって。さあ、お茶もう一杯いかがです?漬物もどうぞ。
そうなんですか。『こしあんバー』はどこに行っても売り切れ。都会ではもう手には入らない。チョー激レア。それはそれは、すごい人気なんでございますねぇ。これが世に言うマジ卍ってやつでございますか?え?古い?田舎でございますもので。ホホホ。
それで、田舎なら手に入るんじゃないかと、こうしてわざわざお越しになられたと…なるほど。ご苦労様でございます。
食べた事があるかですって?
はい、先だって税込73円で購入しまして、食べましたが。ええ、大変おいしゅうございました。
味ですか?そうですねぇ…
『あずきバー』の親戚筋にあたるというのですから『こしあんバー』もたいてい硬いのですが、歯が立たないという程のものではございません。こしあんですので、当然アズキの粒が無いぶん口当たりが大変よろしく、口の中でこうホロホロ…というかサラサラ…というか、例えるなら…
砂浜に立っていると、波が寄せてきて…
返していって…
足の裏の砂も波と一緒にスーッ…っと動いていくあのムズムズ感ですかねぇ…口の中が。
え?よく判らない?
私も何を言っているのかよく判らないのですよ。なにしろ田舎なもので。ホホホ。
そうですか…それで合点がいきました。いえね、先日よりなんだか沢山のお客様が都会から来られるようになって、本日も大勢の予約が…
ああっ!また急に飛び上がったりして、鴨居に頭をぶつけてしまいますよ。危ない危ない。
あれあれ、慌てて飛び出して行ってしまいました。