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ドカッとドコ行こう

略して ドカドコ!

今日は新潟県上越市『宝来軒 直江津店』にお邪魔しております。マムシさ~ん

 

赤蝮サンダースのミュージックギフト!

この番組はエーザイマルエツほか各社の提供でお送りします。

マムシさん、今日は新潟県上越市『宝来軒 直江津店』さんにお邪魔しております。マムシさ~ん!」

「いやいやいや、有利ちゃん、しかし暑いねェ。毎日毎日こう茹でるような暑さじゃさ、年寄りには堪えるよな。東京の暑さは日陰でジッとしてたって汗が滴る厄介な暑さだけどさ、なんとかランド現象ってのが原因ってんだろ?…ふたりのアイランドだかワギャンランドだか…」

ヒートアイランド現象ね」

「それだそれだ、そのチンダル現象だかが大きな顔でのさばる東京から遠く離れた新潟ならさ、きっと打って変わってこう涼しく…こう…たいして変わんねえなァ!」

「夏場の気温は東京も新潟も、実はそんなに変わらないらしいよ。マムシさん」

「しかし有利ちゃんさ、ここ直江津は八世紀の古代から今に続く港町でね、風情があってい~い所なんだよ」

森鴎外の『山椒大夫』の舞台だよね。あと浄土真宗親鸞聖人が配流された場所でもあるか」

親鸞さんていうと、鎌倉時代の人だったな。いやはや悠久の歴史を感じるねぇ」

「…マムシさん…マムシさん…」

「ん?なんだいおばあちゃん、蚊の鳴くような声で。餅でもノドに詰まらせて今際の際かい?」

「握手してくれっちゃ」

「ああ、いいともいいとも。東京からあんまりイイ男が来たからって、ビックリして心臓止めないでくれよ。達者そうだねぇ。おばあちゃんも承元元年に親鸞さんと一緒に流されてきたの?」

マムシさんが来るってラジオで聞いて、隣町からやって来たっちゃ…」

「この自動二輪で」

「えええっ⁉おばあちゃんが?これに乗ってきたってのかよ」

「わし、膝が痛くて歩けないから…」

「とんでもない乗り物ミスチョイスババアだな!シニアカーかなんかじゃないんだぜ!まったく…だけど腰が曲がったまま乗るにはジャストフィットして良さげだな」

「三気筒だからパーシャル走行もスムースで…」

「おばあちゃん、オートバイはいつから乗ってるの?免許はいつ取得して」

「三気筒だから下はトルクもあるし上はよく回る…」

「うるせーな‼ このヤロ~よく喋るババアだな!佐渡島マン島みたいに爆走しそうな顔しやがって。まァなんだ、とにかく安全運転で気をつけて帰るんだよ。長生きするんだぜ」

マムシさ~ん。お店お店」

「おっと、そうだったそうだった、宝来軒ね。しかし宝来軒なんて、また名前がいいよな。後ろ向きで入るには、こりゃァお誂え向きだよ。宝来宝来、オーライオーライ、なんてね」

「さ、入ろう」

「オイオイやたら間口が狭いじゃねえか、ここの店は。人一人分やっとこだよ。こりゃァ万事無駄なく出来てやがら。こう向こうから客が出てきたらさ、お互いにニッコリ笑顔で握手、ハグとチークキスをして譲り合わなきゃいけねえな。世の中平和が一番だからなぁ」

「よォよォよォ、東京からキムタクが来たよ」

「いらっしゃいませ~」

「やあやあ、よかった安心したよ。間口があんまり狭いんでさ、店の中もそのまま長細いんじゃないかと心配しちゃったよ。今日は土用の丑の日だからって、いくらなんでもこちとら鰻じゃねェんだからな」

「いやはやどうだい、またメニューが豊富だねえ。門戸は狭いが入ると充実している、気のきいた大学みたいな店だね。言い過ぎか?ガハハッ」

「何にいたしましょう?」

「そうだなァ…マーボーラーメンをいただこうかしら。ん?隣のおじいさん、あなた何食べてるの?」

「オレ?もやしラーメン」

「このヤロ~、もやしみてェな体しやがって。高齢者はタンパク質をしっかり摂らなきゃダメだぜ。ああ、こっちも美味そうだな」

「おじいさん、よく宝来軒には来るの?」

「時々ね」

「まさかさっきのリーンウィズババアみたいにオートバイじゃ…」

「歩いてだよ」

「そうだそうだ、歩くのが体に一番体いいってね。長生きするよ…ん?どうしたんだよ。早く食べなきゃ麺がのびちまうぜ」

「いや…首が上を向いたまま固まってしまって…」

「ザビエルの肖像画みてえなジジイだな!浜辺に打ち上げられた踏み絵みたいな顔しやがって。しょ~がねェなァ、町の中華屋特有の高い所に設置されたテレビをよ、夢中で見てやがるからこうなるんだよ。さあ、首を揉んでやるぜ。どうだい?マムちゃんの手は大きいだろう?しっかり食べて、栄養つけて長生きしなきゃダメだぜ」

「おっと、オレのマーボラーメンが来たな。ああ、こりゃ美味そうだ。メンマも乗ってるのかよ。ふ~ん、また珍しいな」

「モグモグ…美味いねェ、これァ。四川とかの花椒を効かせた本格麻婆じゃなくて、こういうのでいいんだよこういうので。町中華ってのはさ。いいねぇ、落ち着くねぇ」

「この箸入れ…過去に使った事なんてないんだけどさ、なんだかどっかで見た事があるような…これが既視感ってヤツかい?ひょっとして日本人のDNAにすり込まれてるんじゃ…」

「馬鹿なこと言ってないで曲いくよ、マムシさん。山崎まさよしで『中華料理』」

「ああ、いいね」

 

「いやいやいや、い~い店だったよ、宝来軒直江津店。また来るよ」

「チャーハンも有名だって話だからね」

「そういうのは先に言ってくれよ~、まいったな~有利ちゃん」

マムシさん、今日はこれで東京にトンボ返りなの?」

「いやいやいや、たまには地方で命の洗濯をだね」

「いいの?奥さん、帰りを待ってるんじゃ」

「いいんだよいいんだよ。怒られたって」

直江津に配流されれば御の字よ」

「流刑で済むとは限らないけどね」