"初雪やこれが砂糖なら丸儲け"
昔からこの、欲というものはどなたにもあるとよく申しますが、綺麗な雪を見て金儲けの事を考えるなんてのはどうも、あんまり粋なもんなじゃございませんな。
"重くなるとも持つ手は二人 傘に降れ降れ夜の雪"
こうなると雪も艶っぽくてよろしゅうございますが、ものには程度ってのもありまして…
おっそろしく降ってきやがったなぁどうも。
おォゥ寒、小寒ときやがったね。山から小僧が泣いてくるてえからなぁ…あァ、こう寒くちゃ小僧じゃねえや、大僧が泣いてくら、こりゃあ。
突き当りが十日町駅…だよなぁ、駅前だか雪山だかわかんねえな、こうなっちゃあ。
クライマーという者は、所詮気の弱いロマンチストなのかもしれない…
えッへ、ただ町中を歩いている者なんでござんすがね、こちとら。
あァあァ、こりゃ雪がヒラヒラだ、コンコンだ、シンシンだァどころの話じゃねえよ。ドンドンだよ、この降りっぷりは。
そういや歌舞伎の舞台じゃ雪の降る様子を、雪バイなんていわれるバチで大太鼓を叩いて表現するんだっけな。「雪音」なんて粋な擬音表現らしいけどよ、ここいら十日町じゃ祭り太鼓みてえに威勢よく叩いたっておかしかねえぜ。
道のありがたみを知っているものは、道のないところを歩いたものだけだ…
いえッへ、冗談言っちゃいけねえ、もともと道があったところを歩いたって、ありがてえって思わあ。こまめに除雪しなけりゃ、埋まっちまうよ。好きでもねぇのに首ったけだよ、ンとにィ。ちょっと立ち止まってるくれえで、"かさこじぞう" 状態になっちまうから油断もスキもねえや。
おうおう、見つくれ、頭の上ェ…
マジで頭上注意だからな。まごまごしてやがると、テトリスっちまうぞ。
「止まれ」の標識もこのザマだ。
止めちゃいやだよ酔わせておくれ まさか素面じゃ言いにくい…
いや、止まれって。除雪で寄せられた雪が壁みてえになってるから、一時停止のォ左右確認はよ、しっかりやらなきゃ駄目だぜ。
冬場じゃねえ時に町ィ通るとよ、なんだかヤケに広い道幅じゃねえかと気にはなっていたんだが、ああ、なるほど雪を寄せておくスペースだったんだな。万事ムダがねえや。
しかしなんだ…歩道から車道がまるっきり見えねえな…
駐車場から車を通りに出す時も、気を抜いちゃいけねえぜ。
慌てて飛び出して雪に突っ込んじまい「な、な、南無三宝…ゥ、薬はなきやと懐中を…」なんて忠臣蔵の六段目じゃあるめえし、まったく追いつかねえぜ。
なン…なんだい?なんだかいィィい匂いがしやがんなあ。
熊出没注意?『ラーメン・クマ』?
出やがったね、どうも。
ェえ、どうも…ラーメンと聞いただけで、なんだか体の目方が増えてきたような心持がした…ありがてえな、どうも…あァ、この雪ン中で。
おゥ、まっぴらごめんよ。
どうだい店主、表は寒いねえ。
店ン中ァ暖かいのは何よりのご馳走だ。こいつァありがてえありがてえ。
まぁ、腹はふくれやしねえが。
ラーメンは…そうだな、体ァしんからカァーッて温められる、辛味系なんざァいいな。急かしちゃァ野暮だけども、なるべく早場にして貰うように、おう頼むぜ。なあ、こう寒くちゃいけねえやな。
いよぅ、ようこそ御入来。一番辛いラーメン『オロチョン』だ。
熱々、モウモウ、うーん、これァいいや。見ねえこのラーメンをよ、どうだい、ェえ?色といい、上へこう…ぐうッと具が盛り上がる、なあ、こういかなくっちゃァいけねえ、ラーメンは平らになっちまっちゃいけねえやな、うん。ありがてえありがてえ。
ズルズル…モグモグ…あァァ、うめえ!
フ~、気が遠くなるようだ…体がポカポカしてくるとこなんざァねえなァどうも、あぁいいラーメンだどうも…七十五日どころじゃァねえや、こりゃどうも、三年ぐらいおれァ生きのびちゃったァ…ははッ、うまかったぜ。
さあ、いくらだい?
お、また来るぜ。
ちんちちてんつんとん…〽達磨さんこちら向かんせ世の中は、月雪花に酒と三味線…なんて、えへへ。あァ、いい心持ちだ。
こうなりゃ甘い物にも行きたいね…"せぱれいとべりー"なんて、いわゆる別腹だよ、なあ。
駅通りにある創業大正12年の『木村屋』に着いたぜ。
ここじゃ銘菓『あささささ』や『だんだんどうも』、『わっつぁば』なんて方言丸出しで一向なんだか分からねえ商品名だが、どいつもこいつもうめえ菓子が勢ぞろいしてやがるけどよ
ここで一番うめえのはこの『サバラン』に決まってらぁ、なあ。
あぁ…たまらねえ。
だが、初めて食う時はなんだ、その、エプロンを着けるか着古したTシャツかなんかの着用をお勧めするぜ。こんな人のいい顔してちょんとケースにおさまっちゃァいるが、とにかくブリオッシュに染み込んでいるラム酒の量が、何かの間違いじゃねえかと思うくらいとんでもねえんだ。ガブリ、ボタボタ、ガブリ、ボタボタのガブボタよ。
慣れていると思っていたが…モグモグ…今回も服にこぼしちまったぜ…ボタボタ…ちくしょうめ。
おゥおゥおゥ、 こっちも見つくんねえ、なあ、生シュークリームが今時120円なんだぜ。慈善事業かい?ここの店ェ。
またここのクリームがうめえのなんの。甘さァしっつこくなくて、こう体にすゥッと入っていくとこなんざァねえなァどうも…モグモグ…クリームを飲むなんてェのはこういうことを言うんだぜ…モグモグ…あッはは、うめえなァどうも…何個でもいけるぜ…モグモグ
うゥん、食った食った。あァ、いい心持ちだ。
十日町で食いてえ物はまだまだあるが、雪の勢いもおさまる気配は無えし、今日はこれくらいにしておくかな。
おっ…なんだか狭えな…
ここを通ってと…
…ん?あれ?…おかしいじゃねェか。普段ならこれくれェの隙間なら、スイスイ通れるハズなんだが…
…おい、どうなってんだ…まさか食べ過ぎて太っちまったんじゃ…い、いや、そんなハズはあるめえ。なあ。
よーし…もういっぺん…せーの…
と…通れねーっ‼
"欲深き人の心と降る雪は つもるにつけて道を忘るる"