「13.5リットル」
マニュアルで燃料タンク容量はこう記されているんですよ。
1100EVOにはフューエルメーターなんて乙な物は付いていやしない。残り3.5リッターでリザーブレベル警告灯が点くって代物でね。
燃費はそうだなぁ…仮にリッター20キロくらいとでもしておきましょうか。ランプが点いたら70キロ圏内でガソリンスタンドを見つけなければいけない。
ところが、世の中には科学じゃ解明できないこともあるんですねぇ…
あれは暑い夏のことでした…
アタシはあの~
「夏が来れば思い出す はるかな尾瀬…」
新潟県側から侵入しようってね。まずは長野県から南魚沼に出たんだ。魚沼産コシヒカリ。有名ですよねぇ。
魚沼市から国道352号線の、いわゆる銀山街道の区分になるんですかねぇ、そこにスーッと走り込んだ。
スゴイ山の中でねぇ…遥か山の向こうが魚沼だ。
山の斜面に白く見えるのが道路ってわけで、おわかりいただけますかねぇ。
でもまだ新潟県、えぇ。
この「枝折峠」にアタシはピーンときた。これは
「自分の中で二度と通りたくない、走行距離チョ~長い峠ランキング上位に入る」
ってね。
よ~く見ると「えだおり」じゃなくて「しおり」だったんですねぇ。
実はここで、すでにガソリンの残量が心許ないことは判っていたんだ。
怖いな~…なんか嫌だな~…
ゴクゴク、ゴクゴクッ
ひとまず「スターバックス リフレッシャーズ クールライム」でエナジー補給ですよ。
ゲップ…もう後戻りできるわけがない。だって長いんだぁ…峠。
ツーリングマップルで確認すると、定期船発着所や登山口駐車場がこの先にある様子。
もう夢中で出発ですよ。
ドキドキーッ
ドキドキーッて気は急いているんですけどね。
ただ、奥只見湖畔に沿って流れる道ってのは、ジャブジャブの洗い越しがこうず~っと続いている。ザバザバ~のビショビショ~でね、ちっとも距離を稼げない。
湖畔から離れ「樹海ライン」に入っても、人の営みは感じられない…変だな~…なんか嫌だな~…って樹海て。
とっくに警告灯は点灯している。
トリップメーターは自動でリセットされ、ジリジリと距離を刻んでいる。
アタシはね、もう必死ですよ。燃費を少しでもよくするためエンジンを回さないよう努めてみるんだが
ドカカーッドカカーッ
っていつも以上に能天気に回るんだぁ…こんな時に限って。ゾ~ッとしましたよ、イタリアの技術に…
そして距離60キロを過ぎた頃だったかな…
やった!助かった!
神様、仏様、ありがとうございますありがとうございます…
なんとか『山の駅 御池』に辿り着いた。
もう無我夢中でバーッと中に入り、店員さんに声を掛ける。
「一番近くのガソリンスタンドはどこですか!」
ってね。
そうしたら店員さんがこう言うんですよ…
「ここから20…30キロかな」
アタシ、背筋に冷たいものがツツゥー…って流れましてねぇ。
だっておかしいんだ。警告灯が点灯してからも走り続け、あと10キロくらいで相棒の鼓動が止まるってのに、2~30キロって…よせよ、おい!
ガタガタッ!ガタガタッ!
気づけば膝が笑ってる
お日さまも笑ってる
子犬も笑ってる
…こりゃまずいなぁ…
幸い下り坂だ。途中途中クラッチを切って惰性で進むなどジタバタしながら、メットの中でウゥ~ウゥ~って唸って…アタシ遮二無二走ったね。
着いたのは福島県「檜枝岐村」という山村で、日本一人口密度の少ない市町村だそうなんですが、その頃はアタシもう意識朦朧でね…バイクもいつ止まってもおかしくない。
念願のガソリンスタンドを見つけた時は息も絶え絶えで、不思議と何の感慨も湧かないんですよね…えぇ。
「ハイオク…満タンで…」
そう呟いたアタシの顔は、さながら平家の落ち武者だ。
そしたらね、給油を終えた店員さんが何か言っているんですよ。
「あれぇ…何だろうなぁ…何を言ってるんだろうなぁ…」
もう訳がわからなくなって。気をしっかり持ってもう一度聞いたんだ…
「ハイオク満タン、14リッター入りました~!」
…でもね
13.5リッターなんだぁ…アタシのバイクのタンク容量は…
どこに飲み込まれたんだ…消えた0.5リッター…そもそもこの世のものなのかなぁ…って
その時アタシ、ふと気が付いたんですよ…
乗っているバイクがモンスター
化け物だったってことを、ね…
なんちゃって(・ω<)
ちょっと変な口調で失礼しました。
もう一度檜枝岐村に行ってみたいな。
農村歌舞伎も観てみたい。
美味し過ぎて贅沢品になり、食べ過ぎ注意の御法度が名前の由来になった『はっとう』も美味しかった。
福島、また行きます!