いつの時代にもカフェイン中毒は絶えない。
その頃、時の政府は『カフェイン過剰摂取改方』という特別警察を設けていた。世に蔓延するカフェインの群れを容赦なく取り締まるためである。
若干の小銭と余りある暇を与えられた、そのカフェイン過剰摂取改方の長官こそが長谷川フェイ蔵、人呼んで鬼のフェイ蔵である。
「旦那、長谷川の旦那…よろしいですか」
「どうしたカヲル、こんな夜更けに。フ、ちと顔色が悪いな」
「へい…コイツを急ぎ吟味していただきたく…へい」
「なんだ?美味そうな炭酸飲料ではないか。どれ…ゴクゴク…ムッ‼ こいつは…」
「コーヒーだな」
「へい…一見炭酸飲料よろしく澄ました顔をしていやすが、紛れもなくコーヒー…カフェイン配合で間違いないかと」
「ふん、ブラック&ソーダ『ガッサータ』なんて乙な名前で、あくまでしらを切ろうという魂胆だな」
「野郎、旦那の前で小賢しい真似を…ガッサータ?なんて…その、いったい何語なんですかね。なんかカックイイ」
「おいおいカヲルよ、どうにも頼りねえな。フフフ、まあ缶の下をご覧」
「え?…あっ‼ 野郎、"ブラックコーヒーソーダ" って書いてやがる」
「タリーズのロゴの下も見てみろよ」
「こ、ここにもコーヒーとしっかり…コイツ、なんて肝の太ェ…」
「ふん、所詮つまらねえ急ぎ働きよ。荒っぽいこと甚だしいが、なんだかシュワシュワしてて美味そうだなんてコイツを口にした連中は、ついついカフェインを摂取してしまうって事になるな」
「ただシュワシュワが好きな無垢な人たちをカフェイン漬けに…許さねえ」
「まあ、そう熱くなるなカヲル。しかしこの味」
「その昔、俺がこの手で縄に掛けたUCCの『フルスロットル』に瓜二つよ」
「炭酸にコーヒー由来のカフェイン2倍を隠して、市中で堂々と弾けようとしたっていうあの…」
「そうだ。"スパークリングカフェイン" なんて世迷言を、世に蔓延らせようとした外道よ」
「なるほど…コーヒー入り炭酸飲料なんて素っ頓狂な野郎は、実は随分前から居たって訳で」
「コーヒーといえばよ、カヲル。エナジードリンクとコーヒーを融合させた『モンスターエナジーコーヒー』通称カフェモンも、そりゃあ手強い凶賊だったぜ」
「カフェインの複合量があのレッドブルの2倍。さらに本家のモンスターエナジーをも凌駕したと云う、文字通りの怪物を旦那がお手に掛けたんで?」
「あのトレードマークとなっている三本の傷跡あるだろう。あれは俺が捕物の時にヤツに負わせたものよ」
「『眠眠打破』『強強打破』『激強打破』の打破三兄弟も、高速道路のサービスエリアで一緒にいたところを一網打尽にしたな」
「特に長兄の激強はなかなか店頭に姿を現さねえ、そりゃあ用心深い野郎なんですが…そうですかい、これは旦那お手柄で」
「ヤツら、『仕事・勉強、遊び』などと手前勝手に広範囲かつ無節操なシチュエーションを設定し、非常に高濃度のカフェインを人々に摂取させようと暗躍する様は、まさに畜生働きのそれよ」
「恐ろしいもんで」
「残業にカフェインを勧める無茶もいたな」
「『集中リゲイン』ですか…残業どころか24時間戦えなんて…今の世の働き方改革に真っ向から異を唱えるとんでもねえ野郎が、昔は平気でのさばっていたんですねェ」
「C.C.レモンを飲んでホッと一息と思ったら、そら、カフェイン入りよ」
「まったく油断も隙もねえ」
「カップラーメンにもカフェイン」
「スイッチONの場所がなんとも微妙で」
「新日本プロレスとカフェイン」
「あっせんなよ」
「SUPER集中リゲイン」
「もう十分いただきましてございます」
「カヲルよ、牢のガッサータの様子はどうだ」
「へい、野郎ずいぶん反省したみたいで、青菜が塩を食ったみたいに萎れてまさァ。しかし旦那、まさに『浜の真砂は尽きるとも 世にカフェインの種は尽きまじ』ですぜ。こりゃァ事だ」
「何かに頼らなければ生きていけない、それが人間だわさ。頼る相手が神仏だろうがカフェインだろうが、己に利益を少しでも感じられれば同じこと。悪くはねえ、悪くはねえが過ぎたるは猶及ばざるが如し。何事もホドホドが大切よ。ならばこそ、俺たちは市井の人々が害さないよう、寝る間も惜しんでカフェインを取り締まる必要があるんじゃねえのか、な」
「旦那…」
「フフフ、今日はコンビニで夜回りをするぞ」
「へいっ。明朝だろうと御供いたします」
「よしカヲル、まずは」
「眠気覚ましにコーヒーでもどうだ」
「こいつァ旦那、一本取られまして」