今年もこの時期がやってまいりました
第69回TMGマスターズ。誰が最強の「たまご料理」なのか、まさに金の卵を決定する熱い戦いの火ぶたがいま、切って落とされようとしています。
実況は私、ゴールドエッグ古林。解説はアメリカ合衆国ニューヨーク州コロンブス大学教授、厚焼きジェイソン氏です。どうぞよろしくお願い致します。
"よろしくお願いします"
会場はもちろん、世界のたまごファンがたまごを割らないでオムレツを作ってでも、一度は訪れたいと渇望する聖地『安曇野直売店 たまごの駅』別名ビッグエッグ。
「俺こそが最強のたまご料理だ」「いや、私が一番よ」「ワシが一等に決まっておろう」「カカロット、お前がナンバーワンだ」と各地から集まった強者たちが早くもニラミ合い、会場の入り口で一触即発レンチンたまご爆発状態。まさに危うきこと累卵の如しの様相を呈しております。
"これは危険な状況ですね。ディスタンスが必要ですよ"
今回のジャッジはJTA所属国際審判のこの三人。真ん中の白いのが主審の鳥頭レフリー。選手たちの感情的な行動に、かなりトサカにきているようですね。
"彼はルールに厳格な堅物のため、ハードボイルドと呼ばれています。ルール違反は決して見逃しませんが、ただ三歩歩くと忘れてしまうので、サッパリとした気持ちのイイ奴との定評もあります"
副審は左右の黄色いのです。
プラカードを掲げた女子高生の後に続き、まずグラウンドに現れたのは『おでんのたまご』選手です。しっかりとお汁がしゅんでいる。コンディションはぬかりなく万全の様子です。
"この日に合わせ、きっちり仕上げてきていますよ"
大根やちくわ、白滝など業界の実力者達を従えての、その堂々たる入場姿は聖帝もかくや。君臨する冬の居酒屋はまさに聖帝十字稜といってもよいでしょう。おっと、新橋のサラリーマン達がおでん片手に熱い声援を送っている。
「うぃ~…ヒック…ジャイアンツが勝てば日本の経済は良くなるっ!」
これは巨人・大鵬・卵焼き世代だろうか。今は令和の時代だぞ。これには異論!反論!OBJECTIONだ。
"新橋駅前の蒸気機関車によじ登っての応援は大変危険です。これはいけません"
次に入場してきたのは、『ラーメンに入っている煮たまご』選手だ。このラーメンは大変にスープが濃いストロングスタイルですが、たまごだって一歩も引けをとっていません。黄身がスープの味をさらに濃厚に、淡白な白身がワインのチェイサーのように口をさっぱりさせる。さながら夏休み田舎に行った時の、恐いじ~ちゃんと優しいば~ちゃんシステムといったところでしょうか。
"昔、祖父の万年青を倒してしまい、罰としてアロエを生で舐めさせられた事を思い出しました。大変に苦い思い出です"
これはなんだ⁉ これは…『ガパオに入っている煮たまご』選手でしょうか。ナンプラーや香草の香りなんぞどこ吹く風。「俺が主役だ」とまさに不敵な泰然自若。アジアの中で我らが日本も、同じような立ち位置にいたいところ。煮たまごがライジングサンに見えてきたのは、ネットで物議を呼びそうだ。
"ガパオはタイ料理ですね。「こんにちは」はタイ語で「サワッディー・カップ」といいます。『ソウルハッカーズ』のタイ料理サワムラで覚えた人も多いのではないでしょうか"
さあ、『カツカレーに乗っている目玉焼き』選手の入場です。たまご2玉をちゃんと使って目玉にしている、これぞイエローアイズホワイトエッグ。1玉なんて認めないプロテスタント正統主義。譲れない戦いがここにある不撓不屈の十字軍だ。なお、片面焼のサニーサイドアップ。両面焼きのターンオーバーなど、焼き方で味に変化が生じる懐の深さ。シンプルながらもその威力と存在感は、まさに滅びのバーストストリーム!スゴイぞ‼ カッコいいぞ!
"私はオッパイに見えてしまいます"
やってきました、『月見そばのたまご』選手の入場だ。ご覧ください、この産まれたままの姿を。世が世なら問答無用でお縄になってもおかしくないセクシーさ。もはや調理など不要。こまけえ事ァいいんだよ。黙って俺に任せとけと言わんばかりの度胸の良さに、会場全体がどよめいています。
"ロッキー・バルボア選手はかつて生たまごをガブ飲みした事で有名になりましたが、食品安全管理上、欧米で生たまごを食べる事は食中毒につながる大変リスキーな行為です。しかも5個です。この命知らずな行動には、さしものチャンピオンのアポロ選手も、リング上でドン引きしてしまった事は想像に難くないですね"
月見という風流な名前によらず「初手からたまごを潰す派」「無傷で放っておき最後にツルンと行く派」など数多の派閥を乱立させ、市井に激しい闘争を繰り広げさせる物騒な調理方法としても有名なところ。"立ち食い界の火薬庫" と言っても過言ではないでしょう。
"生たまごは兵器にも転用できますので大変危険です。1996年5月9日、通称5.9にダイエーファンが暴徒化し、あろうことか王監督に生たまごをぶつけるという、たいへん痛ましい事件が起きた事は記憶に新しいところでしょう。この事件は、法による秩序ある世界へのアンチテーゼとして、決して風化させてはいけません"
『半熟ゆでたまご』選手の入場時間となりました。透明な容器による厳重な拘束。中央でも名神でも、ましてや伊勢湾岸でもない、これが透明拘束だ。だがしかし拘束がなければ何をしでかすか、何個食べてしまうか判らないリミット青天井の美味しさですから、これは致し方ない事でしょう。今回はファミリーマートお母さん食堂からのエントリーとなります。
"お母さん食堂のイメージキャラクターといえば香取慎吾氏ですが、彼の身長は182㎝と日本人女性の平均身長からすると大変高身長です。「おまえのようなお母さんがいるか!」とケンシロウ氏に疑われないか、危惧すべきところですね"
さあ、いよいよ最後の選手ですが、中継による参加となっております。
それでは現場の板東さん、よろしくお願いします。
「あ~、いい湯だったな~…フンフ~ン…可哀想だよズボンのおなら、右と左に泣き別れ…なんてねェ」
板東さん。よろしくお願いします。
「…え?つながってるって?…え?
失礼しました。現場の板東です」
「いま私がいる所は、長野県の北東部に位置します野沢温泉村です」
「野沢温泉の源泉はとても高温で、ここのお湯でカップヌードルを作ると、通常は3分かかるところ1分で出来てしまうと江戸時代より言い伝えられてきましたが、誰も試していないので真偽は不明です」
「指定された待ち合わせ場所に来ましたが、選手の姿が見当たりません。確か専用のトレーニングルームと聞いていますが…あれは?」
「これの事でしょうか。専用トレーニングルームとは。確認してみましょう」
「いました!野沢の滾々として湧いて尽きない温泉により鍛えられた、『温泉たまご』選手です!」
「アチッ!アチッ!隣にある水道水で冷まさなければ、何人たりとも触れる事はできません」
「冷水で冷やします。急冷することで、殻が剥きやすくなるとのことです。表面はクール。でも内面はホット。ふるえるぞハート。燃えつきるほどヒート。これは大変な実力者です。ここからでも熱い黄身のビートを感じる事ができます」
「ちなみに周囲にあるお土産屋さんでたまごを購入すると、たまごを入れる籐カゴから殻を割るためのカッターのレンタル、お塩やピリ辛の薬味もいただけますので、是非ご活用ください」
「慌てて食べるとヤケドするぜ。現場からは以上でーす」
さあ、いよいよ全選手が出揃いました。ここからが白黒、いや白黄色を決めるデスマッチ。だがしかし、鶏が先か、卵が先か。真の敵は鶏かもしれない。真実を疑え。信じるべき、頼るべきは己が信念とカラザのみ。自我の殻を割り、あとはデュエル開始の合図を待つのみです。
"非常に楽しみですね"
なお、このあと11時55分からはNHK教育放送でお送りします。