前回のあらすじ!
「足を洗う」令和の弥次喜多こといつもの空冷二人連れは、ブーツを脱ぎ捨て無邪気に『赤倉温泉 足湯公園』で足を洗った。だが赤倉の湯でも草津の湯でも、いつまでも足を洗えない、止められないのがツーリング。エンジンを咆哮させ、日常生活をミラーの奥へ置き去りにする飽くなき挑戦だ。先にチェッカーフラッグを受けるのは俺たちか…それとも日常か…勝利の女神が微笑むのはどっちだッ。さあ次はなんだ?次はドコに行こう!いったい何の勝利の女神なんだ⁉
「そういえば勝利の男神ってあんまり聞きませんよね」
「ん?いったい何のことだい?」
・日本で最も歴史のあるスキー神
「さあ、着いたよ。カヲルくん」
「一体ここはドコなんです?荒川さん」
「ここは新潟県妙高市にある、"日本で一番古い" と言われているスキー神社。その名も『日本一之宮 スキー神社』だよ」
「日本で一番古い!…といっても、スキー神社さん自体が珍しくて…日本にはいくつあるんでしょうか」
「なんでも長野県や山形県、青森県も含めて五社ほどあるそうだよ」
「建立は1932年。祭神は雨と雪の神様『高雷神』と『闇雷神』。医薬と温泉の神様『少彦名神』。それと日本で初めてのスキー犠牲者である『酒井薫命』。酒井薫さんは1914年にスキーで富士登山中に遭難にあった方だね」
「しっかり地元の方が祀っていらっしゃるんですね。そうだ、荒川さんもスキーをされるんでしたっけ」
「僕はもっぱらスノーボードだけどね。カヲルくんも滑れるんだろう?」
「いえいえいえ~、滑れるなんてそんな大したものじゃ…もっぱら陸サーファーならぬ陸スキーヤーですよ~」
「スキーは陸でやるもんだけどね」
「毎年12月には『スキー神社祭り』が開催され、この斜斜面をゲレンデがわりに近くの園児たちが初滑りを行うそうだよ」
「お祭りかぁ、いいですね~。出店とかも出るのかな?新潟には『ぽっぽ焼き』という縁日や出店で売られているソウルフードがあってですね、こう長細くてモチモチしていて甘くて…」
「それは美味しそうだ。でも今は感染症拡大予防のためにお祭りの中止も多いから、出店で味わえず子ども達も残念だろうね」
「新潟では店舗でも売ってますから、子ども達の食育はなんとか守られている模様ですよ」
「それなら安心だ」
「子どもといえば、荒川さんの息子さんは来年高校受験でしたよね」
「バンドなんか組んで、勉強もせずドラムばかり叩いている…まさにドラ息子だね」
「…ドラ…あ…エヘヘヘ」
「いや…いいんだよ、無理に笑わなくても…鉄板ネタなんだけどな…」
「それじゃあ、スキー神社さんで合格祈願をしましょう」
「え?…う、う~ん…スキーは "滑る" につながるので、縁起が…」
「何を言ってるんですか荒川さんっ‼ ここはスキーの安全祈願が行わるお社なんですよ。ここにお参りをすれば転倒予防間違いなし。受験だって無事に乗り切ることが出来るでしょう。ええい、あの掲げられているスキー板が目に入らぬか!」
「な、なるほど。心して参詣をさせていただくよ」
・世界にも目を向けてみよう
「ところでカヲルくん…僕は普段からあまり音楽を聴かないので、バンドやらドラムやらにはまったくの門外漢なんだ。息子と共通の話をしようにも知識がなくってね。カヲルくんはよく聴くんだろう?ドラマーで有名な人って誰だい?」
「そうですねぇ…2020年に英国の音楽雑誌 "MusicRadar" の読者投票で『デフ・レパード』というバンドのリック・アレンさんが、 世界最高のロックドラマー第1位に選ばれましたね。この方は交通事故で左腕を失っているのですが、まさに偉業です」
「それは凄い!」
「あとはですね…」
「『レイヴン』というバンドのロブ "ワッコ" ハンターさんですかね」
「ほう、ワッコ」
「ライヴでは素手でドラムを叩いたり、頭でシンバルを叩いたりと大暴れをするので、常時ホッケーのヘルメットやプロテクターを身につけたり、ツアーに専門の外科医がついて回ったりと、まさにワッコにおまかせ状態だったという名ドラマーです」
「名ドラマー…」
「あとは『シスターズ・オブ・マーシー』のドクター・アバランシュさんですかね。どんな時でも正確無比に緻密なビートを刻む、その感情なき無機質な音はまさにニヒリズムの極致」
「ほ~、まるで機械だねえ」
「実際リーダーのアンドリュー・エルドリッチが勝手に正式メンバーとして名付けたドラムマシンですけど」
「せめて人間で頼むよ」
「あとは『ブラック・サバス』のビル・ワードさんですかね」
「ブラック・サバス…名前は聞いた事があるよ」
「アルバム『サボタージュ』の裏ジャケットに写っている後ろ姿なんですが…」
「パンツが透けてます」
「だからなんだい?」
「あとは『ヴェノム』ですかね。左上に写っているのがドラムのアバドンさんといって、ギターのマンタスさん、ベースのクロノスさんと一緒に不道徳きわまりない…」
「そ、それくらいで結構だよ、カヲルくん」
「荒川さん、少しはお役に立てました?」
「あ、ああ、ありがとう。世のなか理解に苦し…いや、知らない事って多いんだねえ…」
「そうですそうです。なんでも勉強って思わなくちゃ。人生に無駄なことは無いって、息子さんにそ言っといてください」
「なんだかよく判らないが、承ったよ」
・希望のある年に
そんな荒川さんのご子息もこの春、無事に第一志望高に受かられました。
よかったよかった。
遊びも勉強も全力で!
スキー神社さん、合格祈願にだってご利益ありますよー‼