「また缶コーヒー飲んでる、荒川さん」
「え?ああ、飲んでるけど、それがどうかしたかい?カヲルくん」
「コーヒー飲んでる自分に酔ってません?バイクで颯爽と走ったあとに、ブラックコーヒーを飲んでる自分に」
「そんな事はないよ。コーヒーが好きだから飲んでるだけだよ」
「ヘルメットを脱ぎ空を見上げ、無駄に眩しそうな顔をしてコーヒーを飲む自分に酔ってません?」
「酔ってないから。そんな人だっているかもしれないけど…」
「あと、コーヒーはコーヒーでも缶コーヒーに拘ってますよね、絶対」
「そんな事もないよ。缶コーヒーは自動販売機で気軽に買えるから、自然と飲む機会が増えているだけさ」
「自動販売機が理由なら、昔アラブの偉いお坊さん自販機で買ったっていいじゃないですか」
「昔アラブ…ああ、コーヒールンバが流れる自販機のことだね。『ミル挽き珈琲』だったっけ、あれは完成まで待ってる時間が好きじゃないんだよね」
「私もあの音楽は苦手です。ついつい体が動いてリズムをとっちゃうから…こう主に横移動で。ハハ〜ン、さては荒川さんも?」
「そうじゃなくて、個人的に待ち時間が勿体ないって話しをだね…って横移動とはいったい...」
「あと、ライディングジャケットの前をイタリア人のシャツばりに無駄に開けて、ショットボトルの蓋を少し乱暴に開ける時も自分に酔ってますよね」
「この時期は暑いから胸もはだけるよ…程度もあるだろうけど」
「あと、トラブルもなく至ってバイク快調なくせに、不必要に首を捻ってエンジンを覗き込みながらコーヒーを飲む自分に」
「そんな人だっている…のかなぁ」
・コーヒー、それはバイク乗りの嗜み
「でもバイク乗りたるもの、ツーリング中のコーヒーはマストアイテムだということは重々理解しています」
「なにを理解しているのか理解不能なんだけれども…」
「なら、スタバだってイイと思うんです」
「もちろん良いだろうけど、値段が張るかな…。そりゃあコーヒーは美味しいけどね。カオルくんはスターバックスでコーヒーをよく飲むのかい?」
「スタバはフラペチーノ屋ですから」
「飲まないんかい」
「ドトールだってイイと思うんです」
「なるほど、ドトールでコーヒーをよく飲むのかい?」
「ドトールはソフトクリーム屋です。なに言ってるんですか」
「カヲルくんから始めた話なんだけどねぇ…」
「しかしです、私も恥ずかしながらバイク乗りの端くれ。ツーリング中のコーヒータイムは欠かせません。苦いの苦手だけど」
「ほう。缶コーヒーでもショップのコーヒーでもなく、カヲルくんは何を飲むんだい?」
「『みどりコーヒー』です」
「みどりコーヒー?」
「おひとつどうぞ」
「お、ああ、ありがとう。チューチュー…うーん…」
「いかがです?チューチュー…」
「あ、甘い…」
「美味しい~。走ったあとにサイコー!やっぱりバイクとコーヒーは相性抜群ですね〜」
「その…確かに商品名は『みどりコーヒー』なんだけれど、これはコーヒーとして認識してよい物なのかどうか…」
「あと『ピクニック コーヒー』とか」
「う、うん」
「『UCC ミルクコーヒー』とか」
「無理にコーヒー飲まなくてもいいんだよ、カヲルくん」