2021年も無事に、新潟県と福島県をつなぐ『雪わり街道』が開通したのでございます。
また開き、通ずるとの知らせを耳にした刹那、体の奥に火照りを感じてしまったことを春の陽気のせいにしたところで、アナタは信じてはくれないのでしょうね。
XRに跨り、ハンドルをそっと握りしめ、波のように押し寄せる鼓動に身を任せます。
シリンダーの中をピストンが激しく上下し、単気筒は私めの下で荒ぶり唸りをあげるのでございます。
ここは只見線、大きな白い川と書いて大白川駅でございます。
只見線は福島会津若松から新潟魚沼をつなぐ鉄道路線。1,000m級の山々を抜ける間に設けられたトンネルの数は10本。様々な穴をじっくりとご賞味いただければと存じます。
・六十里越峠
今日は国道252号線、再開通した雪わり街道『六十里越(ろくじゅうりごえ)』峠を抜きます。
ずっとつながっていたくとも、国内有数の豪雪地帯であり雪崩注意の落石注意、毎年11月から5月にかけては通行止めとなり、半年間のおあずけ状態を強いては身も心も弄ぶ、それはそれは罪づくりな国道なのでございます。
眼下に望む田子倉湖は、今日もマンゝと水を湛えているのでございます。
峠は福島県側でも急勾配とカーブが続きます。
人生は九十九折。転がり、堕ちていく事へも時に人は惹かれ、魅せられてしまいます。これぞ生の不思議、浮世の妙味というものでございましょうか。
水は低い所に流れるといいますが、人も同じ。 人体の60%は水で出来ているといいますもの。
至るところで、雪解け水が道に流れ込んでいます。
この時期の雪わり街道をバイクで走れば、はしたないと言われようと下半身がしとどに濡れてしまうのでございます。
田子倉ダムにたどり着くと、黒色を基調とした巨大なバイクを駆り、全身レザーで身を包んだ黒光りする男たちが集結しています。
黒光り男たちは皆ビッグツインのバイブレーションに当てられ、朝だというのに恍惚とした表情で缶コーヒーを飲んでいます。その横で慎ましく伊藤園の大納言しるこを口にする私めでございます。
田子倉ダムは、高さ145mの重力式コンクリートダムでございます。
総貯水量は全国第3位。
この否応もなく押しとどめられた大量の水どもの、放出や迸りへの衝動や欲望、深いデザイアへ頼まれもしないのに勝手に思いを馳せ、一人ダムの上で身悶えをするのでございます。あゝ…
黒光り男たちが心配そうにこちらを見ています。どうぞ、どうぞ放っておいてくださいまし。
多くの流木や芥が、流れ流れてダム湖に集まってきます。
川の流れに身を占って 何処をねぐらの今日のダム
荒む心でいるのじゃないが こんな芥に誰がした
ただ運命に翻弄され流れついたもの達を、船乗りの男たちが各々の逞しい棒で寄ってたかって突いているのを、今は上から見ているしかないのでございます。
ここは水力発電所としては日本第2位の出力を誇ります。
遠く首都圏まで電力供給を行っていますが、この自然豊かな田舎から、都会に行った電力たちはどのように扱われているのか…
寒い夜、夜汽車に揺られ上京していったあの娘はどうしているのか…
知る由もないし、知るつもりもないのでございます。
天を衝けとばかり立派にそそり立つ田子倉ダムを、残念ながら下から仰ぎ見ることは叶いません。
「立入禁止」
ならば座って入らんとする一休さん的打開策も、桔梗屋や将軍義満公以外には通用しないのでございます。
・道の駅尾瀬街道『みしま宿』
奥会津にも、新緑の季節到来でございます。
可愛いらしいイヌノフグリも咲きみだれていることでしょう。
この町にはガソリンスタンドが一店舗しかなく、数年前に訪れた際に
「フ~、初夏やちゅうのにこう暑くちゃたまらんなぁ。これが地球温暖化か。クソ~なんや知らんトランプのヤツ、町であったらどついたる。しかしリッター空冷はまるで走る股火鉢やど。環境破壊の前にワシの股間が破壊されそう。もうアカン~。あ、おばちゃん、ハイオク満タンで。奥までグッとたのんます」
と慣れない土地のため少し緊張しながら給油をお願いすると、レギュラーしか扱っていないので隣の柳津町まで行ってくれと言われ、思わずビックリ クリクリ クリックリしてしまった覚えがあります。
そのスタンドも2020年には廃業。現在は町が出資する農業法人が経営を担っているというのですから諸行無常、ただ春の夜の夢のごとしなのでございます。
道の駅尾瀬街道『みしま宿』でございます。
ここまで伊藤園大納言しるこしか口にしていないものですから恥ずかしながら私め、飢えでギラギラしているのでございます。
店舗内に入る際などに、マスクを着け忘れることはなくなりました。
すっかり習慣化したのでしょう。むしろ外していない事にはたと気づくことが多いくらいでございます。
パートナーと熱いベーゼを交わせる際に、マスクを外し忘れていたと気づく方々もいるのではないでしょうか。
因みに私めも最近、キャラメルコーンを食べようと口に放り込むと、マスクをしていて弾かれた事がありました。お茶目でございます。
・官能の福島
店内の一角で、ひときわ目立つ鮮やかな桃色。
『福島 桃の恵み』でございます。
「桃の果汁100%」
「ストレート」
あゝ…この挑発的な文字。
ショッキングピンクの缶へ手を伸ばしながら、濃い原液を飲み下せるのか不安と期待が入り交じり、思わず吐息が漏れてしまうのでございます。
レジ横には松茸おにぎりが山と積まれています。
熊本県天草の春松茸は日本一の早採りと聞き及んでいましたが、この時期の福島で松茸を目にするとは…
松茸のあのなんとも言えぬ蠱惑的なシルエットを思い浮かべながら、ワンパックを手にレジに向かうのでございます。
桃と松茸の揃い踏みでございます。
あのプリンとした割れ目も愛らしい桃と、隆々とした松茸が…モグモグ…あゝ、口中で見事に結合したのでございます。
この両者の一時の逢瀬にあって
「食事として桃ジュースとご飯は果たして合うのか」
などという者がいるのなら、これは大変な野暮天。まるで木石、石頭。石崎君の顔面ブロックなのでございます。
「ようこそ会津へ」
あったのでございます。まだ、極上の日本が…旅先のアバンチュールがここ、会津に。
お越しの際はぜひバイクで。会津路の自然や空気感を、あまねく全身で堪能できますのでお勧めでございます。
そしてあなたのパートナーはきっと言うでしょう…
また、いきたいと。