「カヲルさん、おひとついかがですか~?」
「ありがとー、エリカちゃん。ちょうど甘いモノを食べたいと思ってたんだ」
「パクッ。さすがに12月になっちゃうと、何かと気忙しい感じがしますね~」
「モグモグ…なんだろうね、12月だからってやっていること普段とあんまり変わらないのに。ビンボー暇なし。なんたって洗うが如しの赤貧チルドレンだからね、うちの事務所は」
「なんですかそれ~」
「でも忙しくても、休暇はしっかり取るように」
「パクッ。も~、まだまだ海外旅行も行けないですし~」
「モグモグ…ちゃんと感染対策をして、国内旅行にでも行っておいで」
「観光地でお金を使いたいとは思ってるんですよ~」
「えらい。でも、あまりムダな散財はしないようにね」
「そうそう『これって一体だれが買うんだろう~』って思うお土産、ありますもんね~」
「”地方の意味不明なステッカー” とか~ ”地方の名称入り提灯” とか~ ”北海道の熊の置物” とか~」
「モグモ…ゴホゴホッ…」
「そういえばカヲルさんも、福島県へバイクでプチ旅行してきたじゃないですか~」
「…え?うん、雪解けを待って春ごろにね。今年のことなんだねぇ、もうずいぶん前のような気がするけど」
「福島ってイイところでした~?」
「奥会津だったけど、イイところだったよ!『赤べこ』で有名な "柳津町" にも行ってきたし」
「赤べこ~?」
「"べこ" は東北の方言で "牛" のことを指すんだよ」
「牛…赤い牛なんているんですか~」
「昔々この地方で流行った疫病を赤い牛が払ってくれた、と会津では言い伝えられていてね」
「赤色は魔除けの意味もあるから、子どもの無病息災も願って、真っ赤な牛の張り子人形が作られるようになったんだって。全国的にもメジャーな郷土玩具だよね」
「張り子人形…」
「和紙で出来た人形だよ。赤べこの円らな瞳はソーキュート!触ると首を振るギミックなんてもうチャーミングで!お土産にはきっと喜ばれる…」
「赤い牛の人形のお土産…」
「?」
「ふ~ん…なんだか…あんまり…」
「…あの」
「その…赤べこ、お酒のラベルなんかにもなっていてね~」
「それは良かったですね~」
「マグネットなんかにもなっちゃて、モ~、これはうちの事務所でも使っちゃおうかな~」
「あ、結構です~」
「キャップやTシャツ、靴下やパンツなんかにもなっているから、全身赤べこコーデだって夢じゃ…」
「夢は夢であった方がいいと思います~」
「じゃあ、お疲れ様でした~」
「うん、気をつけて帰ってね…」
「赤べこ、可愛いのに…」
「使用目的不明のステッカー、いいじゃん…」
「名称入り提灯、渋いのに…」
「北海道の木彫り熊、イイ…」