金曜の夜、ダチとケンカをした。
しかし、あんなイヤな野郎ってないね。
今までよくあんな奴を、親友だなんて思っていたもんだよ。
イライラした時は、メシをたらふく食べてストレス発散するに限る。
翌朝目覚めても憤懣やるかたなかった俺は、久しぶりにコンビニ『ポプラ』の弁当、通称「ポプ弁」を食べようとバイクに飛び乗った。
なんたってポプ弁のご飯はホカホカの店炊き。大盛は350グラム、特盛はなんと450グラムなんだぜ。
ところが、一体全体どうなっているんだ。
コンビニに着くと、そこはポプラじゃなくローソンだった。
からあげクンも美味いが、俺はポプラの唐揚げ弁当(唐揚げ×10)を食べたいんだ。
ここ、富山県黒部市の宇奈月温泉には、確かに俺たちのポプラがあったハズなんだ。
それがマチのほっとステーションになっているじゃないか。
「ほっと発見」「ほっとうれしい」「ほっとやさしい」
今の俺には全て似つかわしくない言葉だ。
俺は今、バチバチに尖っているんだ。
あの駐車する客たちの視線と排気ガスに悩まされながら、弁当を掻っ込んだ店の前のイートインコーナーも…
すっかり撤去されていた。
なにもかもが懐かしい。
朝はまだ早い。
俺は夢でも見ているんじゃないのか。
携帯で調べると、2021年3月に富山県からポプラは撤退していた。
販売店舗網と人員のスリム化…収益を上げやすい体制の立て直し…
言っている事はわかる。
不意にダチの顔が浮かんだ。
確かに、昨日アイツの言っていた事も正論だった。だが、それだけで構成されているほど、世の中って単純じゃないだろう?
やにわに立ち上がり、俺は宇奈月駅をノホホンと利用している連中に対し
「アンタたちがポプラを失ったって事は、単純にコンビニが変わったって事だけじゃないんだぜ!」
と叫んだ。
心の中で。
再びバイクに跨り、走り出す。
暗澹とした気持ちがバイクに影響したか、以前に乗ったラビット125くらいに出足が遅く感じられるのが不思議だった。
ポプラは俺たちのもとを去ってしまったが、 富山にはまだコイツがいる。
開店は1996年。
開業25年といえば、コンビニ界では老舗になるのかどうなのか、俺はよく判らない。
開店した数年後に大手コンビニチェーンが近くに出店する事態となり、ならばと個人経営ならではの独自性へと豪快に舵を切った、フロンティア精神旺盛なローカルコンビニだ。
その独自性は、昔も今も俺たちの心を魅了して止まない。
見てくれ。
そんなに需要があるとは到底思えないキリン『力水』に対しても、勝手にこの力の入れようだ。
因みに俺は、ビンの時の方が好きだった。
何気に洋モクの品揃えが県内屈指だったり、一般家庭じゃあまり使わないと思う調味料が豊富に売っていたりと、独断と偏見がハンパない。
「あなたと、コンビに、」だの「近くて便利」だの寝言は寝て言え。POSシステムなんて味噌汁で顔を洗って出直してこい状態だ。
中でも異彩を放っているのが
店内で作られている「おにぎり」と「サンドイッチ」だ。
おにぎりは『さけ』や『たらこ』など、普通のコンビニにだってある商品もラインナップされているが、そんなのここではオマケだ。
『かも』『うさぎ』『いのしし』…まるで遥か太古の、狩猟時代の日本に戻ってしまったかと思うばかりの品揃えだ。
「ほたるいか」「くま」…どいつもこいつも安易に手が出せない。味が想像できないからな。
本当に俺たちが知っている、あの身近で手軽なコンビニというカテゴリーの店なのか疑ってしまう。
とりあえず『うましか』おにぎりを購入した。
たぶん具は「馬肉」と「鹿肉」だろう。それらの肉なら過去に何度も口にしている。あまり一緒に食べた事はないが。
書品名が漢字表記でなくて良かった。
なんとなく甘ったるい味付けを想像していたが、香辛料がしっかり効いていてスパイシーで美味い。
一口目は恐る恐るだったが、その後はペロリだ。
サンドイッチも一筋縄じゃいかない。
「たこやき」だの「おでん」だのをサンドした、只者じゃないヤツらが雁首揃えている。例えるなら、2001年の近鉄 "いてまえ打線" の破壊力だ。
悩み抜いた結果、今回は『しいたけハンバーグ』を購入した。
肉厚プリプリでしっかり歯を押し返す椎茸が、ハンバーグと口の中で混然一体となりうま…
少し安牌なサンドイッチを選んだんじゃないかって?
冗談じゃないぜ。
俺は店に入る前、店先に無造作に置いてあるこの椎茸の原木を見逃さなかった。つまりサンダーバードは、椎茸もシコシコと栽培しているということだ。
もはやコンビニという範疇から逸脱している…こうなったら食べるしかないだろう?
そしてデザートはこの『きのたけ』サンドイッチだ。
「きのこたけのこサンド」
そう、なんとあの明治チョコスナック『きのこの山』と、同じく『たけのこの里』がクリームと一緒にサンドされているのだ。
味は想像していた通り…ではなく、「きのこ」も「たけのこ」もすっかり湿気ってしまい、それが逆にソフトな食感とパンとクリームとの一体感を誘い、なんだか上品で美味い。
この菓子たちが長く続けている「きのこたけのこ戦争」といえば、世界の紛争や内戦の中でも激しい争いで有名だが、ここ富山で終戦を…いや、すでに共生を初めているというこの事実を、もっと世に広く伝播した方がいいのではないかと俺は思う。
またダチの事を思い出した。
アイツがきのこで、俺がたけのこ。
ぶつかり合い、だが何処かでお互いのことをリスペクトしている姿も、まるで同じだ。
フフフ…サンダーバードに教えて貰ったな。
最後の一口となった『きのたけサンド』を勢いよく口に放り込む。
夕方にでもアイツに電話をしようと決め、俺はバイクのエンジンをかけた。
コンビニの食べ物の中で、俺はブリトーが一番好きなんだ。
まったく、世の中って単純じゃないだろう?