/* 記事内キーワード下線を消す */

ドカッとドコ行こう

略して ドカドコ!

【木曽谷】中善酒造店で地酒『中乗さん』を手に入れろ‼

 

前回のあらすじ!

晩秋の木曽路に飄然と現れたバイク2台。

早朝の冷気のなか「エンジンが喜んでるぜ!」と強がる空冷二人連れだが、空腹には勝てず「腹減って力(リキ)入らねぇ…」と早くも意気消沈。

木曽街道の名所『食堂SS』でホカホカの朝食を取り、二人は元気と勇気、そして笑顔を取り戻した。

さあ、次はなんだ。

次はドコ行こう!

inakakaoru.hatenablog.com

 

f:id:inakakaoru:20201127215955p:plain「ドコ行こう!…なんて言ったところで、帰路につくだけなんですけどね…」

"CB750と書いて愛妻号" こと荒川さんは、隋の文帝とオンライン飲み会をしたら奥様について朝まで語り合い寝落ちしてしまう程の恐妻家で知られますが、今日のツーリングだって暖炉用の薪割りを厳命する奥様に「午前中に必ず帰るから」と約束をして、脱しゅ…出発してきたと聞いています。そろそろ帰らないと…薪を割らないと…租庸調…

「さて、体に兵糧も入れたことだし…木曽福島までつき合って貰おうかな」

「⁉」

正気ですか、荒川さん⁉ そんな…ちょ…大丈夫なの⁉ シールド越しに見える顔には死相が浮かんでいるような…決死の覚悟なの⁉

ああ、もうエンジンを始動しています。

ええい、ままよ。出発です!

 

中山道木曽谷の中心部

f:id:inakakaoru:20201127221744p:plain木曽福島に到着しましたー!町営駐車場に停めさせて頂いてと。

「ク~、やっぱり木曽路をバイクで流すのは最高ですねぇ」

「まったくだね。気分も晴れ晴れさ」

「晴れ晴れ…荒川さん、その…正直に言ってください。本当は鬱鬱なんでしょ?もしくは陰陰で、それとも滅滅で、はたまたで昏昏で、そうかと思えば朦朦…」

f:id:inakakaoru:20201127220624p:plain「いったい何のことだい?」

「家で待っている奥様のコトですよ。こっちはもう心配で心配で、気が気じゃ…『クマ出没』…今はそれどころじゃないんですよ!」

「それどころだよ。怒られるよ、木曽町の人に」

f:id:inakakaoru:20201127220700p:plain「妻には帰宅が昼過ぎになるって連絡をしておいたから、安心して」

「ホッ。それならそうと早く言ってくださいよ~。も~、この全身レザーオヤジ…ん?ちょっと荒川さん、何をボサッとしてるんですか。クマが居ないか周囲の警戒を怠らないで!」

f:id:inakakaoru:20201127220731p:plain「あれ?『ハイアース』のホーロー看板じゃないですか。製造年は1970年代と言われていますね。ここの看板は楕円ですが、楕円形型は二種類あるんですって。他にも長方形や突き出し型、笑顔のレアバージョンもあってですね…」

「ずいぶん詳しいねぇ」

「で、この方は、誰?」

「そこは詳しくないんだねぇ。歌手の "水原 弘" さんだよ」

f:id:inakakaoru:20201127221052p:plain「ああ、あの第一回日本レコード大賞受賞者の」

「そういのは詳しいんだねぇ。さあ、着いたよ。ここに来たかったのさ」

「ここは…酒蔵?」

 

・全国新酒鑑評会「金賞」木曽の地酒

f:id:inakakaoru:20201127221116p:plain「木曽谷で慶応元年から続く『中善酒造店』さんだよ」

「木曽の地酒ですか。イイですね~…"ちゅうじょうさん" …」

"中乗(なかのり)さん" だね。ここで造られる清酒の銘柄だよ」

f:id:inakakaoru:20201127220434p:plain「中乗さんというのはだね、木曽の民謡「木曽節」に出てくる人物のことさ」

「人の名前なんだ」

「木曽谷は95%が山林でね、檜やサワラなどの良質な木材の産出地として有名で、古くから林業が盛んな土地なんだよ。伐り出した木材は遠路はるばる尾張、今の愛知県辺りまで運ばれるのだけど」

「陸送は大変ですよ」

「そこで木材を小さい筏に組んで木曽川に流すことになる。ところが川幅は狭く、おまけに流れが速い。しぶきを上げる川波や岩などは避けなければいけないよね」

「デンジャラース!」

「その不安定な筏の真ん中に乗り、流送を操った人を "中乗さん" と呼んだのさ」

「それはスゴい!だから木曽の方々は今でも中乗さんに、羨望と敬愛の念を抱いているのですね。それにちょっとオチャメのようだし」

「オチャメ?」

f:id:inakakaoru:20201127221220p:plain「店内には様々な中乗さんがあるね。さて、熱燗に合うのはどれかな。すいません、ご店主。よろしいですか?」

「チョッとでも気を抜くことの出来ないお仕事ですから、きっとクタクタで夜はスヤスヤの爆睡でしょう。そりゃあ寝坊だってしちゃいますよ…ドンマイ」

「寝坊?」

f:id:inakakaoru:20201127221242p:plain「なるほど、この『辛口本醸造』が熱燗にピッタリなんですね。ご説明ありがとうございました。これをいただきます」

「木曽のお酒は旨酒ですからね。これは朝だって飲みたくなるに決まってる…う~ん、わかるわかる」

「…」

f:id:inakakaoru:20201127221330p:plain「あ、袋は結構です。いやぁ、口にするのが楽しみですよ。また来ます」

「そりゃぁ冷たい川の水をジャブジャブ浴びるんだから、朝からお風呂に入って温まりたい時だってありますよ…旅行けば~♬ 

「あの…カヲルくん。中乗さんに対してだと思うけど、何をさっきから若干ディスり気味の独り言を…」

「え?だって」

f:id:inakakaoru:20201127221359p:plain「"朝寝" "朝酒" "朝湯" が大好きで、身上つぶしちゃうんでしょ?中乗さん」

「それは小原庄助さん』ね」

【XR230】エキパイのガスケット交換をしよー

 

10月のやまびこドーム松本大会でKAORU(田舎)選手が、電流爆破デスマッチによりデイトナ(アルプス計器)選手を撃破し見事ベルトの防衛に成功した。

試合後、微弱電流からのダメージを癒すため別所温泉あたりで休養を取ると思われていた王者だが、すでに次の対戦相手の挑戦を退けたというから驚きだ。さっそく本紙は取材を行うべく、コンタクトを試みた。

inakakaoru.hatenablog.com

 

f:id:inakakaoru:20201111222406p:plainしかし "Twitter" や "Facebook"、"LINE" などは一切やらず、もっぱら連絡は "ショートメール" か "手紙を乗せた笹舟を小川に流す" 方法を取るKAORU選手との連絡は難航を極め、取材は一時暗礁に乗り上げたかの様に見えた。だがそこに、本人が頻繁に出入りする店があるとの情報が入り九死に一生、渡りに船と本紙記者はその店に急行した。

f:id:inakakaoru:20201111222503p:plain場所は上田市中央の『甲州屋』同地では知らぬ人は居ない老舗の喫茶店だ。

初見であらば入るのに躊躇してしまうであろう外観に気圧されながらも、恐る恐るドアを開け入店すると

f:id:inakakaoru:20201116214535p:plain「いいぞ!そこだ!うーん、いい取り組みだったな。しかし相撲取りは強いな。まずタックルなんてしてもひっくり返らない。体が違うからな。あと土の上での練習というのが心身を…それにしても勢(伊勢ノ海)は蜂窩織炎の具合はもういいのか?あと、輝(高田川)はなぜ金ピカのまわしを止めてしまったんだ?」

長い歴史をヒシヒシと感じさせる年季の入った店内で、大相撲中継をムダに熱く観戦するKAORU選手を発見した。

f:id:inakakaoru:20201116223410p:plain激戦のダメージをクリームソーダで癒すリラックスモードの王者に、チャンスとばかり取材を申し込むとすんなり快諾。普段は面倒くさ…気難しいことで有名だが、これがクリームソーダの恩恵か。喫茶店で商談をする際は、クリームソーダの注文を強くお勧めしたい。

まずはデイトナ選手との激闘をふり返って貰った。

「そりゃあ、大変な試合だったぜ。ヤツの微弱電流攻撃は一発一発がサンダーでファイヤーでパワーボムだ。例えるなら戦国武将の立花道雪が受けた落雷の一撃。または『龍が如く』のブルーZリーダー青田のスタンガンの一撃。あるいは奥歯でアルミホイルを噛んでしまった時のあの一撃。それくらい危険な技の連続よ。いまでも肘を打った時に指先までなんだかジ~ンとしてしまうあの骨、あの部分がビリビリしている」

今まさに、リング上で対戦相手と睨み合っているかのような厳しい表情で、細長いスプーンを使いクリームを口に運びながら語る王者。やはり想像以上の死闘だったようだ。そして、クリームを先に食べるタイプのようだ。

少し話題を変えて、喫茶店はよく利用するのかを訊いてみた。

f:id:inakakaoru:20201111222609p:plain「最高だろ、喫茶店は。サテンを利用するってのはな、その店で飲食をする事じゃねえ。その店の歴史に名を刻むって事なんだよ。どうだ、好きな物を頼んでいいぞ。もっともここは喫茶店だから、酒の提供は出来ないがな。ガハハ!酒といえばアンドレ・ザ・ジャイアント選手の酒量はスゴかった。試合前でもワインなんか瓶で水代わりに飲むんだから。5ガロン入りのワインを一人で空けた時もあったな。5ガロンといったら20リッターくらいだぜ。あと、焼肉屋に行ったら店のビール全部飲んじまうし、仔牛一頭分くらい食べちまう。ある時なんか190センチ100キロ以上はあろう女と…」 

屈託なく本紙記者にメニュー表を渡すKAORU選手。さすがは現チャンピオン。太っ腹だ。

好意に甘え、早速オーダーをしたトーストセットを頬張りながら、デイトナ戦直後に臨んだ試合について水を向けてみた。

f:id:inakakaoru:20201116232727p:plain「XR(本田技研工業)だよ、相手は」

険しい表情に一変したKAORU選手が口にした相手の名前はXR230。身が軽く、空冷殺法の使い手だ。

ホンダといえば "バイク界のトヨタ" と若干ややこしく喩えられる程、コンディションに波が無い事で有名な優等生だ。いったいどんな一戦だったのだろうか。

「最近エキゾーストパイプを外す機会があってよ…」

inakakaoru.hatenablog.com

 

f:id:inakakaoru:20201116235710p:plain「事のついでにガスケット交換をしようと思ったんだが、シリンダヘッドにガッチリ噛みついて離れやしねえ。まるで噛みつき攻撃のフレッド・ブラッシーさ。なんども指先でカリカリしたり、摘まもうとしても埒が明かねえ。130キロ以上の握力で軟式野球の球をも破裂させちまうフリッツ・フォン・エリックの指先を持ってしてもダメだろうな。エリックといえば呪われた一家としても有名でよ、長男が生まれてすぐに感電死。レスラーになった三男は病気で急死。四男は拳銃、五男は薬物で自殺。六男も…」

額にジワリと汗をかき「怖いな~…いやだな~…なんか変だな~…」とつぶやきながら訥々と語る王者。心なしか照明が、ロウソクの灯りのように思えてきたのは何故なのか。

しかし、まさか強行突破とばかりにマイナスドライバーの先で突くなど、感情的な凶器攻撃に及ぶ事はなかったのだろうか。

f:id:inakakaoru:20201116235817p:plain「なーに、口に含んだ『KURE 5-56』を吹き付けてやったのさ」

毒霧攻撃だ。これにはXR選手もたまらずダウンだろう。

だがしかし毒霧を口に含んだ時点で、自分にも相当のダメージがあるのではないかと以前より疑問に思っていたのだが、今はそれどころではない。

f:id:inakakaoru:20201116235923p:plainXR選手のシリンダヘッドとガスケットとのマッスルタッグ、まさにキン肉マンの "筋肉ガード" のような鉄壁の守りを崩し、見事両者の切り離しに成功したのだ。へのつっぱりはいらんですよ状態だ。

しかも取り外されたガスケットは、図らずもKAORU選手が近頃気に入っている口癖「形変えんぞ」の宣言通りペシャンコの有様だ。これならものぐさの王者も、決して裏返しにして再利用しようとは思わないだろう。f:id:inakakaoru:20201116235858p:plain「試合中、特にシングルマッチの最中とかに水分補給をする事はねえが、それはオレたちが体を鍛えているからだ。筋肉は水分を一番貯める場所だからな。素人の連中は暑い時期じゃないからって、水分補給を怠るなよ」

KAORU選手が近頃よく飲むのはダイドーの『エナジージム』とのこと。まさにストロングスタイルだ。

f:id:inakakaoru:20201116235949p:plain「ちなみにエキパイを固定するジョイントナットのトルクは "10Nm" な。気持ちはわかるけど、締め過ぎんなよ」

豪快な大技と繊細な小技を織りまぜ、時には反則技を繰り出したかと思えば、飽きてしばらく横になりスマホをいじったりと、この多彩な試合運びが王者の強みではないだろうか。

f:id:inakakaoru:20201117000545p:plain「もうすぐ寒い冬だが、まだまだ突っ走るぜ。オレはまるでブレーキが壊れたVT125シャドウ。誰も止められやしねえ。皆がオレの背中を見て追いかけてくるがいい。秋は行ってしまうけど、高田の奥さんは向井亜紀ということさ」

言葉の意味はよくわからないが、とにかくすごい自信を感じられた事が、今回の取材の最大の収穫とするべきだろう。

f:id:inakakaoru:20201117000620p:plain「長時間の取材ご苦労さん。ノドが渇いたろう?どうだ、ダイドーエナジージム』を飲んでみるか?おっと、オレが買ってきてやろう」

ジャージを羽織りそそくさと店を出て行ったKAORU選手。喫茶店なのだから店内で飲み物を頼めばと思いながら帰りを待つも、一向に王者が戻る様子はなく、テーブルの上には伝票だけが残された。