「これが大氷柱か…」
長野県北相木村に、冬期になると巨大な氷柱が現れるとの情報をキャッチした我々冒険チームは、吉日を選んで村の聖地 "三滝山" に集結した。
天気は良いが標高1,000mの山中。極寒だ。
ブーツにグローブ、ストール…そしてポケットにハイチュウ
「みんな、装備は万全だな」
「ハイッ、隊長!」
よーし、出発だ‼
・運命の分かれ道
北相木村は土地の9割が山林で構成されている、人口700人程度の山村だ。
ムッ。永遠に続くかのような長い階段の先に人影が…700人の中の人か…
「あ、ども。こんにちは~」
「ハイ、こんにちは」
冒険中も挨拶は大切だ。
「隊長‼ あそこに道標が」
「『大禅の滝』『小禅の滝』…大か小か…なるほどな」
ここは運命の分かれ道だ…
「…お前たちは寿司を食べる時、なにから頼む?」
「え⁉」
「大トロからだろう」
「え⁉淡白な白身から…カワハギとか…」
「大禅滝から行くぞ。ついて来い!」
・氷の世界
我々は滝に向かっている。それなら川から流れる水の音が聞こえるハズだが…静か過ぎる。これは、妙だな…
「隊長‼ こっちに来てください!」
「なんだ⁉川の上流から箸かカッパでも流れてきたとでも…」
か、川が凍っているだとッ⁉
カッチカチに凍っている!
流れそのままに凍りついているではないか‼
北相木村の1~2月平均最低気温は-10℃…日によっては-20℃までに下がることもあるとは聞いていたが…この寒さ、危険だ!
「こ、これはスゴイですね…隊長」
「そうだな。まるで…」
「メガドライブ版『アドバンスド大戦略-ドイツ電撃作戦-』で降雪が続き、河川が凍りついてしまった時のようだ」
「よく判りません、隊長」
危険だが、近づいて確かめるとしよう。
「やはりカチカチです…水面だけが凍っている感じではありませんね」
「うーむ…」
「思い出すな…凍った川を渡り押し寄せて来るソビエト軍T34/85の危険な群れを…メガドライブ版の」
「よく判りません、隊長」
まかり間違い滑り落ちでもしたら、あっという間に恋はジェットコースター。走り出したら止まらないぞ。危険だ!
「隊長‼ 上を見てください!」
「なんだ⁉上からジャマイカボブスレーチームが滑り降りてきたとでも…」
・大禅の滝
こ、これが氷瀑…凍る滝…
まさに大氷柱だ‼
周囲を包む冷気はいよいよ容赦がない。
だが単純に気温が下がったからではない、張りつめた静寂感や凝縮された空気感…それらが否応なく体を震わせる…ここはまごうこと無き聖域だ。
「これは…神々しいですねぇ」
「三滝山は禅宗の霊場として信仰を集めている地だが、山奥の谷を辿った先に忽然とこの大氷柱が現れたら…信仰など関係なく自然と手を合わせ、森羅万象に感謝してしまうだろうな」
「ナンマンダブ…」
「ナンマンダブ…」
「氷柱の所々が青く見えますね。グレシャーブルー(氷河の青)とでもいいましょうか」
「氷河の氷と同じ原理なのかもしれんな。氷の中に含まれていた空気が圧縮により排出されたり結晶に取り込まれ、透明度が増した氷の奥まで入った光は赤い色が吸収され、幾度となく氷の中を反射して青い色がチンダル現象…つまり」
「つまり…」
「神秘的だ‼」
北相木村の大氷柱。素晴らしい出会いだったな。
世の中は広い…フフフ、これはまだまだ冒険を楽しめそうだ。
今度はドコに行こうか!
「小禅の滝にまだ行ってませんよ」
「そうだったな…忘れるところだった」
・小禅の滝
またしても階段につぐ階段だ。
隊員たちの体力や精神力も限界に達しようとしている。
だが、苦しい時こそ人は成長する。決してあきらめてはいけない。
「隊長‼ こっちに来てください!」
「なんだ⁉ 階段の上からバネのオモチャ『スリンキー』別名『レインボースプリング』三光発条社製名『トムボーイ』が流れるような動きで降りてきたとでも…」
「こんな所に穴が!もしや、また善光寺につながっているのでは」
「あったな、前にそんな穴が…」
振り向くと、そこには滝が‼
「こ、これがもう一つの氷瀑…新たな凍る滝」
「小禅の滝!」
「……」
「……」
「さっき、寿司は何から頼むかという話をしたな」
「ハイ。確か大トロと…」
「自分カリフォルニアロールが好きです」
「よく判りません、隊長」