「先生、診ていただいてよろしいでしょうか」
「おや?田舎さん、今日はどうしましたかな?」
「実は…最近やる気が出なくて…」
「ほう」
「すぐに起きれないし…」
「ふむふむ」
「なかなかエンジンが掛からないというか…」
「なるほど、それはいけませんな。なに、春になって急に動き出そうとすると『おや?変だな?おかしいな?』などと体の変調に気づく人も多いのですよ」
「それでは診ていきましょう。まずは力を抜いて」
「はい…こうですか?」
「そうそう、リラックスリラックス。深呼吸して」
「はい…ス~ハ~ス~ハ~」
「タンクからガソリンも抜きますよ」
「はい…ガソリンを…え?ガソリンですか?」
「左様、アナタの場合、燃料タンクを外さなければならない、少し難しい体質なんですな。日本人には、あまり無いタイプと言えましょう」
「日本人では珍しい…きゃっ♡ なんだか有難うございます」
「あんまり褒められたもんじゃないが…まあ、なのでガソリンを抜いて、タンクを軽くする必要があると、こういうワケですな」
「冬の間ガソリンを満タンにしていたから…きゃっ♡タプタプで恥ずかしい~」
「いや、なに、その、長期保管にはいい心掛けですよ。ああ、10リッターも抜けば大丈夫ですから」
「次は、外装を外しましょう。カウルはそこに置いて」
「はい、こうですか」
「あ、いや、服は脱がなくてもよろしい」
「え…きゃっ♡ 恥ずかしい~!」
「ボルト類が多いので気をつけて。しかしなんちゅう下着を」
「趣味なんです」
「ABSユニットが固定されているコンソールボックスを外して、タンクを動かせる余裕も作りましょう」
「きゃっ♡ すみません、配線類がゴチャゴチャしていて…普段はもっと綺麗にしているんですよ、先生」
「そうでしょうな」
「いつもならムスクやウッディなフレグランスがオシャレに香って」
「そうでしょうな」
「これでよし。どうです、上から泥除けが見えますかな?」
「先生…」
「なんですかな」
「カーボンファイバーリアマッドガードですから~。やだ~!」
「それは大変結構ですな」
「タンクを動かせるよう、ブリードパイプにクリアランスを持たさなければ。さあ、ホースを引っ張って緩めて」
「緩める…こうですか?」
「もっと引っ張って、さらに緩めて」
「こうですか?ルンルン♡」
「腹ばいになって煎餅食べて、あなたが緩まってどうする。ホースを緩めて」
「よし、タンクを持ち上げますぞ。せーの」
「きゃっ♡ 先生の指と、わたしの白魚のような指が触れて…」
「油まみれの軍手をしてますな、お互い」
「タンクが下がらない様、何か支える物が必要だな。えーっと…」
「先生…ここは私が引き受けました…ううう…支えている間に早く…早く…行けーっ‼ キン肉マン!」
「はいはい」
「見えますかな?あなたのエンジンが掛かりにくいのは、これが原因です」
「こ、これは…」
「左様」
「バンテリン⁉」
「バッテリーですな」
「田舎さん、どうです?最近、外出はしていますか?」
「え?その…冬は寒かったので、ネトフリやアマプラを少々…家でゴロゴロと…」
「適度な運動や変化のある毎日を送らなければ、バッテリーは弱ってしまいますよ」
「さあ、古いバッテリーは外しました」
「ああ、なんだか胸が空くような気分…ラララ♪これが断捨離?」
「ちょっと違いますかな」
「では、今日は『台湾ユアサ』を処方しておきますよ」
「ありがとうございます」
「あと、出来るだけ定期的に体を動かすように。体は私たちが治しますが、維持するのは自分ですからな」
「わかりました」
「先生。あの…次の受診はいつになりますか?」
「3年後くらいですかな」
「3年後…その、ちょっと心配なので来月また」
「3年後で大丈夫ですよ」
「あの先生…おかしいな…私なぜが先生と目が合うと、胸の奥で変な火花が…きゃっ♡」
「『NGKスパークプラグ』も処方しておきますね」