越後湯沢駅だ。
時間はちょうど昼めし時。
食事ができる店を探すとしよう。
旅先ではその土地の、出来れば普段とは違うものを食べたいという気持ちは判らなくもない。
だが、自分は違う。
普段と同じもの、つまりいつも通りの食事でいい。
ああ、ココがいい。
『ラーメンショップ』だ。
地元にもあるラーメンチェーン店で、いつも利用している。
こういうのでいいのだ。こういうので。
普段から使っているチェーン店なら、味はだいたい判っている。食事にかかる費用も、おおよそ予測はつく。つまり大きな間違いはなく、要は安心だ。
一体なぜ知らない土地で、知らない店に入り、無用なリスクを背負わねばならないのだ。
さて、事務所の皆の土産を何にしようか…新潟土産か…
そういえば駅構内の売店では
『笹だんご』という物が矢鱈と目についた。
なにしろ…
右を見ても笹だんご。
左を見ても笹だんご。
振り返れば笹だんごがいる。といった塩梅だ。
この笹だんごとやら、地味なネーミングやビジュアルとは裏腹に、よほどの実力者なのだろう。
こういうのがいいのである。こういうのが。
「通が教える新潟土産はこれだ」
「地元の人だけ知っている新潟土産を教えます」
「センスいいね!と喜ばれる新潟土産」
他者がなんと言おうと関係ない。
それら有象無象が勧める土産たちは、この新潟が熱く激しく粘り強く推す『笹だんご』とやらの人気、実力、物量に勝っているというのか。
これだけ売られているという事は、それだけ買われているという事に他ならない。
需要と供給の規模、その継続性、確立されたブランド力。土産としての実績は、もはや疑う余地もないだろう。
これなら間違いはない。
お土産は『笹だんご』で決まりだ。
オーダーしたラーメンが来たな。
まずはいつもの様にスープから…ズルズル…まあ美味い。
それから麺を…ツルツル…ハフハフ…これだ、これでいい。
当たり前、普通、通常、朝に晩に繰り返されるありふれた日々。これでいい。
当然、オーダーしたラーメンは
『ネギラーメン』だ。
ラーメンショップを代表するメニューがこれだ。店で1番食べられているメニュー、それが正しい選択なのである。
ああ、いつも通り美味かった。
さあ、土産を買うとするか。
予定通り新潟名物『笹だんご』を…⁉
な、なんだコレはっ⁉
さ『笹だんごパン』‼
なんなのだ…『笹だんごパン』とは!?
笹…だんご…パン…この3つの要素、3つのエレメントが、この袋に詰まっているという事はかろうじて判るが…あまり馴染みのない単語の組み合わせに加え、この不敵な笑みを浮かべるパンダのイラストは一体…左手にパンダよろしく笹を持ってはいるが…まて!よく見ると右手には笹だんごらしき物も、新橋の酔っ払いが携える折のようにぶら下げているではないか‼
これは笹だんごなのかパンなのか…それともパンダなのか新橋の酔っ払いなのか…
笹だんごがマルッと入ったパンだった!
モグモグ…普通のパンと違いだんごのモチモチも楽しめる…通常のアンパンと違いヨモギだんごのイイ香りもする…正規の笹だんごと違いサッと気軽に食べられる…平素のパンダと違いイラストのパンダは背筋がイイ…
つまりこれは、常軌を逸したお土産ということだ!
という訳で、事務所の皆の怪訝な顔と、その後の笑顔を思い浮かべ、キッチリ人数分『笹だんごパン』購入したのであった。
たまにはこういうのもいいのだ。こういうのも。