「校長、お忙しいところ誠に申し訳ありません」
「一体どうしたというのかね、毎泉先生」
「ほかでもありません、じつは…」
「当校の生徒である六文銭君が、残念ながら我が『トンカツ学園高等学校』の校風にそぐわない、大変な問題行動をとっていたことが判りまして…」
「マジメで服装もしっかりとしており、オープンキッチンで隠し事も無く、真摯に真剣にトンカツに取り組んでいる、優秀な生徒と聞いているが」
「はい、校長。私も六文銭君につきましては、キャベツの千切りに果物を添えるなど、栄養バランスへもしっかりと配慮がある良い生徒だと思っていました」
「ところが寮で『年末だよ!抜き打ち持ち物チェック』を行ったところ…」
「ふむ、持ち物チェックを行ったところ?」
「あろうことかトンカツの中に"肉味噌"を挟んで隠し、寮に持ち込んでいた事が明るみに出たのです‼」
「な、なんと!一見すると普通のトンカツだが…」
「そうです。巧妙に隠蔽されているところが、また悪質‼ なにより神聖なトンカツの間に肉味噌を挟み込むなど、トンカツを愛する我が『トンカツ学園高等学校』においては言語道断の行為!」
「この『六文銭カツ』を口に入れると…う~ん…トンカツの美味さもさることながら、この肉味噌の味付がまた絶妙でご飯が進む進む…ってこれは大変にけしからんことです!トンカツのアイデンティティをないがしろにする侮辱行為。著しい校則違反として、厳罰に処すべきと考えます‼」
「まあまあ、毎泉先生」
「トンカツと肉味噌は、肉に肉。ポーク・オア・ポークなのだから、親戚みたいなものではないかね。生徒の探究心の発露ということで、ここはひとつ許してあげようではないか。六文銭君には、後でワシからきつく注意をしておこう」
「そうですかぁ…校長がそこまで仰るなら。わかりました」
「校長。実はもう一人、問題行動が発覚している生徒がおりまして」
「まだいるのかね」
「ベニスさんという生徒なのですが」
「モダンで大変おしゃれに気を配る生徒で、トンカツの洋風化というグローバルな視点で日々精進をしている、優秀な生徒と聞いているが」
「はい、校長。私もベニスさんにつきましては、ちゃんと他者の立場にもなり物事を考え、リーズナブルな価格で相手を満足させる大変優良な生徒だと思っていました」
「ところが寮で『年始だよ!抜き打ち持ち物チェック』を行ったところ…」
「また持ち物チェックを行ったのかね」
「こともあろうにトンカツの間に"納豆"を詰めて隠し、寮に持ち込んでいた事が白日のもとに晒されたのです!」
「なな、なんと!一見すると普通のトンカツ…」
「いや、もはや納豆隠す気ゼロ!納豆がトンカツから元気にはみ出して、青春の主張がスゴイことになっているね」
「そうです。とっくに開き直り、なんせ居直っている態度がこれまた悪質‼ そしてなにより、母なる大地であるトンカツの間に納豆を詰め込むなど、トンカツを愛して止まぬ我が『トンカツ学園高等学校』においては、ふたつ不埒な悪行三昧!」
「この『納豆入りカツ』の食べ方ですが…ネギと大葉の薬味も効いた納豆入りトンカツに、ななな、なんとお醤油をちょっぴり垂らして、ご飯と一緒に口に入れると…ウマ~!これウマ~!ってこれは不届き千万‼ 静かに暮らしているトンカツの生活圏を脅かすモラルゼロの所業!甚大な校則違反として、厳罰に処すべきと考えます‼」
「まあまあ、毎泉先生」
「トンカツと納豆は、納豆の原料である大豆がその豊富なタンパク質量により『畑のお肉』とも言われているので、これはつまり肉と肉。やはり親戚みたいなものではないかね。冒険心の昇華ということで、ここはひとつ許してあげようではないか。ベニスさんには、後でワシからきつく注意をしておこう」
「そうですかァ…校長がそこまで仰るなら。わかりました」
「出口に『ありがとうございました』と書いてあるね。なかなか礼儀正しい子だよ」
「さ、もう報告は済んだかね」
「はい、校長。ありがとうございました」
「よろしい。これからもここ『トンカツ学園高等学校』で、正しいトンカツとは何かを生徒と共に学び、トンカツを通し世界や人生の根本原理を追求してくれたまえ」
「はっ。尽力させていただきます!失礼します‼」
バタン。カツカツカツ…
「…」
カサカサ…
「でもワシ…ビッグカツが一番好き」