「あのさカヲル…そりゃ "たい焼き" 食べたいとは言ったけどさ…」
「ええ、ええ、発注どーり買ってきましたけど、なにか?」
「その…」
「見たこともない "たい焼き" なんですけどー!」
「ヘイッ。『焼きたて屋』のたい焼き一丁、お待ちどうさまでしたー!」
「ちょっと、なに?たい焼きってさ、フツーこんなビジュアルじゃん」
「まァ、一般的にはそうですよね~。当たり前というか、当たり障りがないというか、つまらないというか」
「つまらないってなんなのよ」
「失礼ですがお客様…焼きたて屋のたい焼きはあんこタップリつまってますからー!」
「アンタがつまらないって言ってきたんでしょ!」
「どーなってるのよ、コレ。いったいナニがたい焼きに刺さってるってのよ…ああ、もう青ノリのいい香りがするなァ…たい焼きなのに」
「ヘイッ。これはですね」
「スギヨの『ビタミンちくわ』です、お客様」
「ビタちく⁉ スギヨの⁉ ウソでしょ⁉」
「煮てよし、焼いてよし、肉厚でプリプリとした食感で食卓にお馴染みの、それでいてビタミンA、ビタミンEが豊富に含まれた栄養機能食品でもあり、昭和27年発売以来広く狭く長野県民に愛されているソウルフード『ビタミンちくわ』が、磯辺揚げになってたい焼きにブッ刺さっております、お客様。もちろん、お客様もお好きでしょう?」
「そ、そこまでビタちくに思い入れってないけど…」
「そのスギヨのビタミンちくわが、今年発売より70周年を迎え、焼きたて屋のたい焼きとコラボした商品が、この『ちくわたい焼き』でございます、お客様」
「プッ。ちくわたい焼って…なんのヒネリもないネーミングじゃん」
「う…」
「さっきまで、当たり前はつまならいって言ってたくせに」
「……」
「⁉ちょっ…やめなさいよ、カオル。たい焼を構えて…ちくわの先を銃口みたいにコッチに向けるのは…危ないでしょ!危なくないけど」
「よく味わって食えよ…兄弟」
「え?なに?カヲル?」
「そいつがお前の、最後のたい焼きだ」
「待って…えっと…なんのマネだ。悪ふざけにしちゃ、タチが悪すぎねェか、兄弟」
「うるせえ!もう、こうするしかねえんだよ!なんでこうなっちまったんだろうな…どっから歯車がズレた?」
「そうか…」
「カヲル…じゃない兄弟…頼みがある」
「…」
「俺をここで弾いたら、それを手柄にして…いつか組でテッペンとってくれ」
「…⁉」
「頼んだぜ」
「……う…撃てねえよ…撃てるわけねえよ…やっぱり俺は、お前と一緒じゃなきゃ…」
「って、なんで急に『龍が如く 0』ごっこを始めたのよ、カヲル!」
「たまに桐生ちゃんと錦の名場面を演じてみたくなるってもんじゃん!」
「ならないわよ!」
「あっ、中はあんこじゃないんだ。まあ、そりゃそうだよね」
「中身はツナマヨなんだってさ、マキ」
「モグモグ…うん、イケるじゃん。ツナマヨに玉ねぎも入ってて、食感もイイね。なにより青ノリの効いたビタちくが…モグモグ…またモチモチしていて美味しいよ。カオル、アンタも食べなよ」
「え?モグモグ…なに?」
「アンタ、フツーのたい焼き食べてるじゃん!」
「そんなフツーのたい焼きだって美味しい焼きたて屋で、異端の極み『ちくわたい焼き』は期間限定で絶賛販売中」
「在庫が無くなり次第販売終了みたいだから、急いで食べなきゃ新年は迎えられないね、カオル!」
「やったねマキ‼ 来年もホームランだ!」