「もしもし、カヲル。ずいぶん時間かかってるけど、大丈夫?」
「ゴメンゴメン。いま戻ってるトコなんだけど、なんか道を間違えちゃったみたいで」
「もう、しょーがないわね。どこら辺にいるのよ?」
「大きな川が見えるよ」
「川?」
「あとは山」
「長野は山ばかりでしょ」
「それらが一望に」
「山の上にいるの⁉」
「コンビニまで買い物を頼んだだけなのに、なんで山なんかに登ってんのよ」
「なんでって…ほら、私って方向オンチじゃん」
「程度ってモンがあるでしょ!」
「だけどここ…モグモグ…どこなのかな…モグモグ」
「食べてるよね、今。私が頼んだ肉まん食べてるよね」
「"502" っていう標識が見えるよ」
「502?ちょっと写真を送ってよ」
「県道502…奥志賀公園栄線…」
「ここどの辺り?マキんちから近い?」
「イイ感じに山奥よ‼ 私んちが奥志賀や栄村から近いワケないでしょ!」
「え~‼ どーやって帰ればいいのよ~!」
「その辺に標識ない?とりあえず町や村を示している方向に行きなさいよ」
「そうだね。青看があった…よ~し…じゃあココは…右だな」
「え~っと…右…?左…?」
「右よ右!」
「そうだそうだ、左に行っちゃダメだ!」
「道、ちょっと分かりにくいかもしれないけど、しっかりしてよね」
「えーっと…今度は左だな」
「左…?右…?いや、まてよ…」
「左よ! 左!まてよじゃないから、まてよじゃ」
「見てだいたい分かるでしょ‼ 県道がこんな未舗装路じゃないってことは」
「ひょっとして、もしかしたら、けだしジャリ道かもしれないじゃん‼ 山道なめんなよ!」
「アンタが一番なめてんでしょ‼ 勝手に山道迷い込んで!」
「えーっと、お次は…」
「右よ右。矢印の大きさが違うでしょ、すでに」
「あっ、そうだね。よ~し、右、右と」
「右…いや左?う~…ここは空を見て、ひとまず星座の位置を確認して」
「星なんか見えないでしょ‼ いま日中!太陽サンサン!」
「これこそ見りゃ分かるでしょ‼ どこの世界にこんな自然豊かな県道があるっていうのよ!」
「ここ長野県ならわかんないじゃん‼ オーガニック県道を推進しているかもしれないじゃん!」
「知らないわよ‼ なんなのよオーガニック県道って!」
「…」
「…」
「コレ、道だよね…」
「確かに道だったよね、標識じゃ…」
「フ~、なんとか人の営みを感じられる場所に出てきたよ」
「やれやれね。まあ、アンタが無事ならなんでもいいよ。慌てないで、安全運転で帰ってきなよ」
「マキ…」
「ありがとう。でもゴメンね…私が道を間違えたばっかりに…頼まれたキレートレモン、すっかりぬるくなっちゃって…ゴクゴク」
「飲んでるよね、私のキレートレモン。アンタ今、喉を潤してるよね」
「また標識があるよ」
「長野に向かいなさいよ長野に」
「わかってるよ。長野長野と…」
「まてよ…ここは川上から流れてくる箸を見て、上流に人が住んでいるのを確認してから…」
「方向オンチとかいうレベルじゃないよね」