「マキ~、お腹すいた!お腹と背中がくっついちゃう」
「ちょっとカヲル、なんであんたのお腹を私の背中にくっつけてくるのよ。やめてよね」
「う~寒い寒い。お昼は温かいモノにしようよ。ブルブル」
「あのさ、ブランケット腰に巻いたまま、事務所から出るの止めなよ。だらしない。気持ち、よーく分かるけど」
「そうそう、宝くじの結果、確認した?」
「年末ジャンボ?そういえば忘れてた。カヲルは?」
「忘れてました~。でもアレだよね、宝くじって買っちゃえば満足して、放って置きがちだよね。プラモデル買って作らないみたいな?」
「ん?ベストセラーの本を買って読まないみたいな?」
「そうそう、超人気店で並んで頼んだラーメンに一切口をつけないみたいな?」
「それは迷惑だな」
「何にするかな…宝くじ当たったらさ、カヲル、買いたい物とかある?」
「メニュー見せてよ…う~んそうだな…焼肉とかお寿司とかピザとかケーキとかパフェとか、美味しい物をお腹一杯食べて食べて…」
「食欲かぁ、それもいいか」
「食べて食べてもまったく太らない体が欲しいっ!」
「えっ⁉ズルいぞ!そんなのあったら私だって躊躇なくポチるじゃん。宝くじなんて当ってなくたっていいよ」
「そこは当たっていようよ~」
「マキはこの『ふのりうどんのほうとう風』にしたら?ふのり、体に良さそうだし」
「ふ~ん…美味しそうじゃん。これにしようかな」
「ところでふのりってなに?」
「知らないのかーい。 たぶん "布海苔" でしょ。海藻の仲間じゃない?」
「え~、私もそれにしようかな。髪に良さそう。みどりなす黒髪って憧れるよね」
「あんたベリーショートじゃない」
「カヲルはこの『のっぺそば』にしなよ」
「え~…『今日の給食は何かな?"のっぺ"?やった~!』『今日は彼女と初デート。ディナーはもちろん "のっぺ" で決めるぜ!』『この "のっぺ" の味は…もしや…あなたは…生き別れた母さん⁉』なんてスペシャルな料理だったらいいけど…」
「"のっぺ" をなんだと思ってるのよ。確か "ぬっぺい" が語源の、とろみが効いてる郷土料理だし」
「それ、めちゃ温まりそう。じゃあひとつ頼むっぺ」
「ちょっとバカにしてるでしょ」
「ところであんたの卓上加湿器、あれ、なんなの?」
「あれ?いいでしょ。水を入れたペットボトルに挿すだけなんだよ」
「それはいいんだけど、ペットボトルの方よ」
「ペットボトル?」
「なんで7UPなのよ!普通ミネラルウォーターのボトル使うとか、ラベル外すとかするでしょ!」
「ドクターペッパーよりいいでしょ!」
「知らないわよ!」
「ふのりうどん美味しそ~。ひとくちちょうだい」
「はいはい、どうぞどうぞ」
「これがのっぺかぁ…美味しそ…あれ?」
「ふ~ん、里芋やにんじんとか具沢山で美味しそうじゃん…カヲル、どした?」
「…え?ううん、なんでもないよ。いただま~す!」
「ズルズル…ハフハフ…」
「どう?美味しい?」
「うむ…美味でござるな」
「?ござる?」
「あ、お、美味しい~」
「うどんモチモチしていて、なかなかイケるじゃん。もう少しあげるよ」
「これはかたじけない」
「かたじけ…?」
「え、あ、ありがと~」
「お水おかわりしようか。ピッチャーどこかな?」
「私が訊くよ。これ!これ!そこな店員。水を所望するぞ!案内せい!」
「ちょっとちょっとカヲル。いったいなんなのよ」
「はて面妖な」
「あんただよ!」
「おかしいな…のっぺを食べてから変な口調になって…」
「どうしちゃったのよ」
「それが…なにか似てるんだよね、見た目も味も、のっぺってアレと…無骨な…二本差の…チョンマゲの…そう」
「會津武家料理『こづゆ』!」
「武家料理~?」
「だからきっとお侍さんみたいな口調になってしまった…」
「侍~?」
「でござる」
「なんなのよ!」