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ドカッとドコ行こう

略して ドカドコ!

飛んで火に入る夏の『はちの子パイまんじゅう』

 f:id:inakakaoru:20210619064838j:plain『塩丸いか』をご存じだろうか。

内臓を抜いたイカを茹で、その胴体に足と塩をパンパンに詰めた加工食品だ。

冷蔵・冷凍技術などない時代からの保存食であり、その多くは福井や富山など北陸地方で製造されている。

ところが、福井の某関係者に塩丸いかの写真を見せ存在を確認したところ、一大生産地にも関わらず「一度も口にしたことがない」「目にした事もない」「おもっしぇえ」というではないか。

f:id:inakakaoru:20210619080525j:plainどうやら塩丸いかは地元には一切出回らず、人知れず闇で取引され、その9割方が海のないN県に流れているらしい。

真相を確かめるべくN県への潜入を試みた私だったが、不覚にも県境で当局に身柄を拘束されしまった。

 

・『おやき』

f:id:inakakaoru:20210619093932j:plainN県のある施設に監禁され、「N県にナニを調べに来たのか?」「緑色でリンゴの被り物をしているゆるキャラといえば?」「伴奏に続き『信濃の国』を最後まで唄え」「"ずく"という方言を正しく標準語にしろ」など厳しい取り調べを受ける毎日。

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出てくる食事といえば、おやきと野沢菜、蕎麦ばかりだ。

f:id:inakakaoru:20210619094008j:plainおやきといえば、福井の某関係者におやきの取材をした際「N県に行き初めて食べた時、なぜ皮の中から煮た野菜や漬物が出てくるのか、今なにが起きているのかまったく理解できなかった」「肉、まったく入ってないのね」と語った事を思い出す。

f:id:inakakaoru:20210619093604j:plain見た目はファストフードのカテゴリー、肉まんの親戚のような食べ物だ。何も情報のない初見の一口で周章狼狽、戸惑い躊躇い訝ってしまったのも無理のない話だろう。

f:id:inakakaoru:20210619093624j:plain因みに私は『なすのおやき』が好きだ。

ところが、その日のおやつの時間だった。

出てきた物を見て、おもわず体におぞぞが、戦慄が走った。

 

・『はちの子』

f:id:inakakaoru:20210619094027j:plainそれがこの『はちの子パイまんじゅう』だ。

"はちの子" といえば、その名の通り蜂の子、蜂の幼虫だ。N県では昔から食されることで有名だが、今や珍味として扱われる高級食材となっている。

N県の昆虫食といえば、いい意味でも悪い意味でもとかく話題になりがちだが、実は国内には食文化として存在している地域が割りとある。

世界に目を向けてみると、アジアやアフリカ、南北アメリカでも結構食べられている。国際連合食料農業機関は、今後の食糧問題に対する貴重なタンパク源として、昆虫食を評価し期待しているくらいだ。

f:id:inakakaoru:20210619094236j:plainだが、食材としてのあのビジュアル。

食文化の多様性が進む日本であっても、やはり嫌悪感を覚える人は多く、受け入れ難いジャンルではあるだろう。

しかして、小綺麗を装っていく現代社会を嘲笑うかのように、地元大学の協力を得てまで饅頭にはちの子を入れる所業。地方食文化継承への執念が生み出した令和の徒花。誰得の逸品。

それがこのパイまんじゅうの正体だ。

f:id:inakakaoru:20210619094304j:plainまんじゅうと対峙するだけで気圧されそうになる。

この中に、あの "はちの子" が…まさに虫の一念が入っていると思うと、思わず手が震える。

正直、虫は苦手だ。それを食べろとは、なんと恐ろしい取り調べなのだ…このままでは仲間の居場所を吐いてしまうかもしれない…違うものも吐いてしまうかもしれない…弱気ではダメだ。

ええい、ままよ!

パクッ。

f:id:inakakaoru:20210619094320j:plain…あら?

普通に白餡のパイまんじゅうだ。甘くて美味しい。

割ってみても、はちの子らしき物は入っていない。

f:id:inakakaoru:20210619095124j:plainパッケージをよく見ると、「はちの子粉末入り」と書いてあるではないか。

ホッと胸を撫でおろす。

これなら抵抗感も少なく、食べられる人も多いのではないだろうか。安心してほしい。

4個一気に平らげ、お茶を所望した。このまんじゅうには熱い緑茶、県産の『田畑のお茶』がよく合う。

f:id:inakakaoru:20210619121643j:plain夕食は信州蕎麦だろう。安曇野産ワサビをキリリと効かせて。

むしろこのまま、塩丸いかを使った代表料理「いかときゅうりの和え物」が出てくるまで、N県に拘束されていてもいいかな、と思う私であった。