「こんちわぁ…ええ…こんちわ」
「誰だい?…あァ、なんだい、カヲルじゃないか?どうしたんだい?お前、最近ちっとも顔みせないねェ、ェえ?」
「ッへ。どうにも冬になってバイクを片づけて以来、引っぱり出してまた乗り出すのがその…なんとも敷居が鴨居で、ええ…いやはやご無沙汰しちまいまして」
「まァ、ちょいちょいおいで。今日はなんだい、XR230に乗ってきたのかい?」
「へェ、ご隠居。そこなんで」
「どこだい?」
「どこって言われても…その、実はね、やっとポカポカ陽気になってきやがったんで、XRのオイル交換でもしようかなァ、なんて…」
「"銭湯で上野の花の噂かな…" ま、いい季節になったね。一年を通じて心持のいちばん浮き浮きするのが春だからな。オイルをリフレッシュして、バイクで花見に行くのも乙なものさ。勿論『G1』だろう?」
「G1…ああ、あの新日本プロレス真夏の祭典」
「なにをいってるン…『G1』といったらホンダ純正エンジンオイル『ウルトラG1』に決まっているだろう」
「へえG1ねェ…あのスタンダードの…普通の…平々凡々の…なんだかつまらねェな。マックにいって素のハンバーガーを食べるような、味気ない感じがしやがんなァ…」
「生意気なことを言うもんじゃない。ホンダのバイクは排気量の大小関係なく、カブだろうがクルーザーだろうがSSだろうが全部ひっくるめて、工場出荷時にはこのG1オイルが充填されているという、まさにオイルの中のオイルてえくらい結構な代物だ」
「そ、そりゃホントですかい⁉ スゲェ!」
「へッ、やっぱりオイルはG1と決まってらあ、こちとら。なァご隠居」
「『Apex Legends』の修正前の高速武器チェンジばりに切り替えの早いヤツだね」
「あれ?缶々ってこんなデザインでしたっけ」
「どうやらこの2021年に12年ぶりに、缶のデザインを一新したようだな。これはこれで、シンプルで洒落てるな」
「ご隠居。コイツの中身なんですが "鉱物油" から "部分化学合成油" に変更されいるみたいですぜ。こいつァいったい…」
「そいつは朗報だ。"鉱物油" は値段は安いが熱に弱く、酸化しやすいんだ。"全合成油" は熱に強く酸化しにくいが、値段が高い。その間をとって性能と値段のバランスを整えたのが "部分科学合成油" というわけだな」
「なるほど…そいじゃァちょいと失礼して…」
「オイオイ急にどうした?はごろもフーズの『こつぶ』みたいにオイル缶を振るヤツがあるか」
「え?部分合成ってんですから、使う前に缶をよく振って混ぜなきゃいけねえと思って…」
「ンなわけァない」
「粘度は "10W-30" から "5W-30" に変更したってんですがね、いってえ何のことだかカイモク見当もつかねえ…」
「"W" は "Winter" の略だ。前の数字は低温粘度、後の数字は高温粘度を表している」
「あっしは上が120で下が80」
「それは血圧だ。低温粘度が10から5に下がっているという事は、エンジンの始動性や燃費の向上が期待できるってことだな」
「G1の容量は1リットル。XRの交換時必要オイル量もちょっきり1リットルだ。量る必要もなく、オイルを躊躇せず入れられるってなァ、こんな結構な事ァないだろう?」
「その通りでさァ。まったく良く出来てら…さすがはホンダ『世界最高のエンジン屋』『ピストン本田』たァよく言ったもんだ」
「ピストン本田は任天堂『マイク・タイソン・パンチアウト‼』の対戦相手だなァ」
「でも、ご隠居。マニュアルには確かに推奨オイルはG1となっていますが、旧オイルの10W-30って書いてあるますぜ…こりゃあひょっとして面倒な事に…」
「なに気にするな。極端な話、右の30の数字が合ってりゃァなんてことはない」
「なァん…それなら安心だい」
「さてご隠居、オイルの栓はどの辺に…」
「栓てなァおかしいな、風呂桶じゃねえんだぞ。オイルストレーナーキャップなら、クランクケースの下にあるな」
「コンチクショウめ!ご隠居ォ、なんだか鉄板が邪魔しやがって、そのキャップとやらが見当たらねえ。映画『ガントレット』で、クリント・イーストウッドがバスの運転席を鉄板でガードしたみてえになってやがらァ」
「これはスキッドプレートだな。跳ね石や突起物から、腹を守るためにお前が装着したんだろう?」
「あっしの腹はガンジス川の水飲んだって、下らねェくれえ丈夫なんで」
「お前のじゃない。バイクの下部を守るためだ」
「カブじゃなく、XRなんで」
「なんて言えば判るんだろうなァ…まあプレート正面と左右のボルトをまずは外してみろ」
「合点承知の助!」
「野郎ッ…なんだってんだい!ご隠居ォ、今度ぁフレームが邪魔しやがって、うまいことキャップが回らねえや」
「XR230のストレーナーキャップは "24㎜" サイズのレンチで外すんだが、メガネレンチを使って細かく回してみろ。因みに締め付けトルクは "15N.m" だからな」
「なんとかやっつけましたぜ。ふ~、まったく手間ァ掛けさせやがって。野郎、ざまあねェや」
「このバネでストレーナーを押さえるという細工だな」
「なン…単純すねぇ。なんだか頼りねえな…」
「こういうのが結局トラブルが少なかったりするんだよ」
「ところでカヲルよ、どうだい最近なにか面白い事はあったかい?」
「そうッスねぇ…ボトムズの『Perfect Soldier Box』を買ったくらいで…へへ、貧乏暇なしなんて言いますがね、年度末だってんでなんだァかんだァ忙しくって、面白え事なんてとんと…あとボトムズのマグカップを買ったくらいで…」
「ふ~ん、そうかい……ボトムズばっかりだな」
「あとウズラを飼い始めたくらいで」
「そういうのを先に言うんだよ!」
「もういいですかね?ご隠居」
「うむ、いいな。時間をかけて気が済むまでオイルを抜けるのが、自分でオイル交換をする醍醐味の一つだよなァ」
「おっとッとうッと…へへ、スイスイ入っていきやがら。こいつはホントにサラサラだね。どんだけサラサラかと例えるなら、由井正雪のサラサラヘアーぐらいだよ」
「そんな例え方をするヤツがあるか。しかし、由井正雪なんてよく知ってたな?」
「ヘイ『江戸を斬る 梓右近隠密帳』の再放送で見ましたんで」
「ああ、ミッキーのだな。ああ、ありゃあ確かにサラサラだ」
「これでよしと… ご隠居、エンジンをかけますぜ!」
「ああ、新生G1オイルの船出だ。盛大にかけてみろい」
「あたりきしゃりきのコンコンチキよ。よーしッ、いくぜ!」
トトトトト…
「ああ、いいッスねえ…」
「ああ、いい音色だなあ…」
「じゃァご隠居、そろそろ行きまさあ」
「うむ、気をつけてな」
「今年はいっぱい走るぞー」
「ブログも書けよー」