出来るだけ人と接触しちゃダメだって?
うむ、上手くやるから大丈夫だ。
そう心配するな。
ポリポリ。陣中食にドライ納豆を携帯するかな。なんか免疫力UPって聞くし。
わかってる。見たらすぐ帰ってくるって。
ああ、夕飯までには帰ってくるから心配するな、昌豊。
では忍び装束に着替えてと…よしっ、信廉、出掛けるぞ。
あ、どうも、武田信玄です。
謙信の領国は、言わずと知れた越後の国だ。我が武田家が支配しつつある北信濃とは隣り合わせだから、いっつも角突き合わせるコトになる。
おまけに謙信のヤツときたら、人から頼まれれば損得勘定なく律儀に陣を張ってくるから忌々しい。お節介にもホドがあるぞ‼ こっち来んな!
信濃から越後に入るには数か所のルートが存在するが、今回はそ~っと北国街道を通って行くことにするぞ。
ん?なんだ信廉
せっかく信州に来たんだから、名物の "そば" を食べたいだと?
こいつめっ、遊びじゃないんだぞ!
今は人に"会わない" "話さない" "接しない" の「隠密」に徹しなければならないと何故わからぬ!
自分勝手な行動が、すべてをお釈迦にしてしまうのだからな。
だが…自動販売機なら、まあいいか。これなら人に会わないしな。
信濃町にある、そばの自販機に寄るとするか。
こらっ信廉!右側はタバコの自販機だ。タバコも今は御法度ぞ!隠密中に自分の体の抵抗力を下げるような事をしてはならん。左側の不二家 "ネクター" にしとけ。"天ぷらうどん" もあるが…無論ここは "天ぷらそば" のボタンを押すぞ。
手打ち蕎麦屋の敷地内にあって、清々しいほど堂々と営業をしているこの自販機を前にして、いったいうどんを選ぶヤツが居るというのか?いや、いない(反語)
ん?この調理時間を教えてくれる表示機は…ニキシー管じゃないか!ずいぶん年季が入ってるな…まだ現役で動いているのか。板垣信方みたいだな。
おぉ、出来上がったぞ。どれどれ…
お湯がゴップゴップと溢れてくるぞ!これは仕様なのか?いった中でどんな調理が行われていたというのだ。
お汁がヒタヒタだぞ‼ アチチ!程度ってものを知らないのか⁉ 熱きこと、火の如くだ。
ええい信廉、早く器を受け取れ、器を!
ふー、出来たぞ。小袋の七味も掛けてと…さあ、食べるぞー…ちょっと待て
信廉。手洗いうがいはちゃんとしたか?習慣にしなければダメだぞ!
「♬ 手洗い、う~がい、亀治郎」のリズムで覚えておけ!
馳走になったな。美味かったぞ。
と言っても誰も居ないので、後片付けもセルフだ。信廉、口元にそばの切れ端がついているぞ。ん?そばかすなんて気にしないの?なにを言っている。
捨てられている容器の数を見ると、結構な繁盛ぶりではないか。利用している連中も「隠密」行動をしていると見える。いい心掛けだ。
そうこう言っているうちに、首尾よく越後に忍び込めたな。さあ、着いたぞ‼
ここが謙信の居城、春日山城だ!
なんという巨大な土の城なんだ…
複雑な地形の上に、おびただしい数の堀切や腰曲輪、土塁が施されているぞ。これはちょっとやそっとの軍勢で押しみても、ビクともしなさそうだな…
謙信のヤツ、野戦が得意だから築城なんかにまったく興味がなくて、雨でも雪でもお構いなし、横に館があろうが陣幕を張って野営して、床几に座って仏頂面しているイメージだったんだが…こんな長大な総構えの、立派な城を……オレなんて本拠地、館なのに…
"危険" だと…
ええい、見ればわかるわ!この山一個まるまる贅沢に使った山城の、物騒極まりない縄張りくらい。見ろっ、今にも上からインディジョーンズばりの丸い巨岩が落ちてきそうではないか。アワワ
油断するなよ。隠密行動に徹するんだ。
謙信め…なんて恐ろしいヤツなんだ。城の見取り図をおおっぴらに見せびらかして、あろうことか丁寧に案内までするとは…フムフム現在地はここか…
よほどの自信の表れだ。この規模の巨城を有していれば、ちょっと天狗になるのも仕方はないが…小癪な…オレが館だからって…
誰にも会わず、三の丸を通って二の丸まで来たぞ。
謙信め、まさかこのオレが、この甲斐の虎が、ついつい気になってちょっかい出しちゃう存在が、のんびり居城を見て回っているとは思わないだろうて。グワハハハハッ!
シーッ…静かに進むぞ。
頚城平野を一望だ。越後は広いな~。甲斐や信濃とはずいぶん違うな。
まったく…こんなにいい領地があるのなら、不要不急の遠征は止してジッとしてろよな!遠くは小田原までとか、大軍でアクティブに攻めて行くなよ。ちょいちょい戦場となる関東諸侯はみな、大規模災害宣言を発令しているぞ!米蔵か。
越後の米は、おかず無しでもドンドンいけるウマゴメだからな。大切に土塁で囲むのも無理はない。だが、ムダな買い貯めなんて絶対にダメだぞ!
しかし、この城の曲輪という曲輪は、だいたい土塁で囲まれている厳重仕様だ。
謙信め、夜襲や奇襲が十八番のくせに意外と固いところもあるんだな。大胆なのか慎重なのかどっちなんだ…暑いんだか寒いんだか判らない半袖のタートルネックみたいなヤツだな。やっと着いたぞ!
高さ180m。ここが春日山城の頂上部
「お天上(おてんじょう)」なんて呼ばれている本丸だ。
足元の土は粘土状でカッチカチ。スゴクしっかりとした踏み心地だ。柿崎だの本庄だの熊みたいな上杉の猛者どもが、100人乗っても大丈夫な頑丈さだぞ。
城に居ながらにして、日本海も見えるんだな。海いいな~。
ここからなら重要な貿易港である直江津や城下をつぶさに監視でき、迫りくる軍勢の動きも手に取るように判るとは思うが…
謙信よ。お前もしかして、ただ海を眺めたくてここを居城に選んだんじゃないのか?時々、メチャ寂しい目をする時があるからな…
酒の量も増えていると聞いているぞ。体、大事にしろよ。オレとの決戦の前に、体なんか壊したら承知しないぞ!
せっかくだから、『春日山神社』に参詣していくか。
アイツめ、越後じゃほんとスーパーヒーローだな。
ならば仇敵のオレは、ここじゃ蛇蝎の如く嫌われているのだろうよ。フフフ、壁となって立ちはだかる強者の宿命、アンチはファンと同義語とも言うしな、むしろ冥利に尽きるわ。グワハハハハッ!
しーっ…隠密中だったな。大きな声での会話は禁物だ。唾も飛ぶしな。
境内には誰も居ないな。完璧な隠密行動だ。フフフ…む!
どうした信廉、息せき切って走って来て…
なにーっ⁉ 謙信が居たってーっ!エエーッ
ヤバイじゃん…アイツ摩利支天の憑依した軍神じゃん…オレ車懸りグルグルがトラウマじゃん…
ど、どこに居るって…
出たーっ‼ カ、カワイイーッ!
このお馴染みのアラビアのロレンスみたいな被り物、斜め上を見つめるつぶらな瞳、風通しよく豪快に開いた胸元…って信廉‼
こいつめっ、フェイクニュースを流しおって。今、一番してはいけない事なんだぞ。今度こんなひょうげた真似をしたら、黒川金山送り…いや、越後だから佐渡金山送りにするぞ!しかし…受け手側もしっかり情報を精査して、パニックにならないようにしないとイカンな。
さて、そろそろ帰るか。春日山、いい所だったな。
ではまたな、謙信。今日は隠密だったが、またお互いに大軍を率いて、なんの気兼ねもなく北信濃の川中島で濃厚に合戦をしようぞ。川中島周辺はたまったもんじゃないけどな。グワハハハハッ!
あ、毎年お歳暮ありがとな、塩。
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