ェェ、たいへん陽気がよくなってまいりまして、初夏といいますと、一年のうちで一番いい時ですなぁ。歌を詠むお方なぞは、ただいまは大変いい時で。そして色々な花がどんどん開花期を迎えていくてえのァ、よろしゅうございます。
鳳仙花ちりておつれば小さき蟹…
鳳仙花が花をこぼし、すると下にいた蟹が驚いて、ハサミをあげて走っていくという、実にいいもんですな。けど、蟹はどうしても横に走っていくことになる。
「なんだか知らねェけどもなぁ、蟹てェやつァ横に這うもんだが、この蟹ゃ、縦に這ってるんだがなぁ」
そしたら蟹が
「少ゥし酔ってますから」
なんて…
フ~…ええッ、いい酒ですなァ、こりゃァ。いい心持ちだ。ゥゥゥ…
「この酒を止めちゃいやだよ…酔わしておくれ…さ…まさか素面じゃ言われない…」
ッてねぇ…ヘヘェェ…ぐゥッと…ねェ…フ~ッ、極楽ですよ。
ううン…なんだ…酒くらい飲んで…ェえ?週末ですよ。ここぁ長野市ァ娯楽の殿堂『権堂町』だぁ。
「おっとっとっとっとっ…あ、ケッコウ」
ニワトリだよ、これじゃァ…
「さぁ、矢でも鉄砲でも持って来ォい………逃げちゃうから」
…ァァ…いい心持ちだねえ。ばかにうまいよ…酒はね…「天の美禄」というよ…ね。「百薬の長」ッてんだから、どしこと飲んだっていいンだい。嘘なら役所ィ行って訊いてみろい!
甘露甘露…一週間がんばってお勤めしたんだ、「アメとムチ」のアメってンだい…ねぇ
…アメといやぁ
"飴もなか" って、相場は決まってるン。
そういやァ、先に食べたのが新潟は長岡市『長命堂本舗』の飴もなか。
今度ァ新潟市『渡辺あめや』の飴もなかを食べようってンだ。こっちも名店だね。
じゃあ越後に出かけよう、ねぇ。
おや?無いよ。
店ェ。
新潟総鎮守『白山神社』の近くってなァ聞いてきたんだが…
おい、そんなことってねえなぁ…渡辺あめやっていやぁ
"山本五十六元帥" が慰問品の御礼に手紙を送ったっていう老舗だ。
山本大将は大の甘党だったそうで
「飴もなかこわい…うわーッ!…今度ァお茶がこわい」
なんて、言いやしねぇと思うけど…おっとっと、あんまり調子に乗ってると、46サンチ砲でどやしつけられちまう。そんなこたァ冗談だけどもねぇ…
なんだい、ありましたよ。
越後線白山駅の真ん前だから、ちょいと店先をお借りして、まっぴらごめんねぇ。
「こんちわァ…少々うかがいますがぁ…あのォ…こんちわァ」
「俺屋根へ上がってんじゃねえからねェ、家の中で船を見送るような声出すんじゃァねえよ」
なんてことは言わないが、奥から店主が出てきて
クルクル、クルクルって慣れた手つきで、丁寧に梱包してくれたよ。よゥ、ありがた山のほととぎす。
肝心の、もなかの中ってェと
こいつぁ…
これが…実にィ…好ィい水飴がつまっています。
いいのなんのって…あァたァ…ェえ?…本当に冗談じゃァねえや。…あぁ…俺も水飴になりてえッてえくれェのもンです。
「越後名物かずかずあれど なかで自慢な飴もなか もろ人このむ味のよさ」
てンで、しをりをひょいと見ると、渡辺あめやの方にも「珍菓」って書いてあらぁ。
新潟にはなかなか乙なものがありやがンなぁ…なんてんでこっちゃァ長野も黙って引っ込んでいられるかい。うゥん、引っ込んでいられねえ、出っ張るよ。
お?
限界集落…一番!?
…こりゃァまた随分なんだね、エエ…おじいさんおばあさんの絵も悲壮感なんて微塵も無くニコニコしてやがるよ…これァ恵比寿顔ですよ…でもヤケを起こしちゃァいけねェな。昔から言うじゃねえか…
「ノーリミッツ」
ってね…
そこの名物が
この特製の
『虫倉最中』
あんこの中に栗だの胡桃だの入っていて、実にうまいねぇ。
…え?なにが珍菓だって?なに言ってやン。
なンしろ
最中をこさえて売っている店が
『きんたまや』ってんだよゥ…チン菓。なんつって。うわァァい!
おあとがよろしいようで。